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アメリカから考える日本の座標軸

【アメリカから考える日本の座標軸 9】
古川勝久


日本の「条約交渉」重視VS米国の「条約履行」重視

再考迫られる両者間のバランス

(2002年3月19日付)


 余談になるが、近年のマクロ経済学は「政策の時間整合性」という概念を重視する。市場経済のプレーヤーは市場化進展の下、将来を予測しながらその行動を決定するため、政府は政策発動のタイミングを慎重に選ばないといけない。いくら妥当と思われる経済政策でも、他の政策との整合性を顧みずにタイミングを無視して発動すれば、全く逆の結果をもたらしかねない。

 実は同様の概念が安全保障政策についても適用できる。同盟国が個々に正しいと思う政策を進めても、互いにタイミング面で整合性をとらなければ、非友好国につけこまれる隙を与えかねない。その一例が、月刊誌『論座』4月号に掲載された宮本雄二・外務省軍備管理・科学審議官の論文に見られる、軍備管理・軍縮政策を巡る日米間の相違である。

 宮本審議官はブッシュ政権の核軍縮・軍備管理政策を、「多国間の枠組みに相対的に低い重要性しか与えておらず、わが国の立場との間に齟齬を生じる可能性がある」、と批判。来る4月の核不拡散条約(NPT)運用検討会議と、包括的核実験禁止条約(CTBT)の正式発効の重要性を説いた上で、「(CTBTの正式発効が)なぜ米国の安全を損ない、ひいては日本の安全を損なうことになるのか(米国は)説明し、説得する義務がある」。

 日本はその説明に納得できなければ、「『外交努力』を相対的に重視する方針」をとらねばならない。

 宮本審議官の批判は極めてもっともであり、筆者も同感するところが多い。ただ一つだけ本質的な疑問が拭いきれない。「なぜこの時期にCTBT優先なのか?」

 NPTを重視する立場はブッシュ政権も同じだ。ただブッシュ政権が宮本審議官と大きく異なるのは、新条約の交渉よりもまずは既存条約の徹底的履行、すなわちその実効性確保を重視する姿勢だ。ブッシュ政権は調印国の条約遵守状況の検証作業を最重要課題とみなす。

 具体的には軍備管理・軍縮政策上の最優先課題を、イラク・北朝鮮による大量破壊兵器開発に対する査察実施、と位置付ける。NPTに基づく国際原子力機関(IAEA)査察をほぼ10年にわたって無視し続けてきた両国に国際社会はいかに対応すべきか? 既存の条約さえまともに運用できずに、なぜ新条約ばかり作ろうとするのか? 残念ながら、宮本論文はこの質問に対してほとんど言及さえしていない。

 米国と違い日本では、イラク・北朝鮮問題の緊急性はまだあまり認識されていない。米国ではイラクとアルカイーダとの関係についてすでに様々に報道されてきた。イラクがテロリスト・グループに「聖域」を提供し続ける以上、テロ根絶のためにもイラク攻撃もやむなしとの見解も広まりつつある。

 そして、対イラク国連経済制裁は5月に期限を迎える。他方、3月半ばの上院公聴会で中央情報局(CIA)関係者は、「北朝鮮がイラクに対してミサイル関連技術を輸出し続けてきた」経緯を証言。ある国務省高官によれば、「北朝鮮は2003年1月1日になればすぐにもテポドン2号を発射できるようになる」。

 核軍縮、核兵器廃絶、ミサイル関連技術拡散防止、そしてテロ根絶。これらは日本政府も最重要視する課題だ。多国間枠組みに基づく新たな軍備管理・軍縮交渉はもちろん重要だが、これらレジーム(体制)への深刻な挑戦がすでに目前にある。日本は一体どうするつもりなのか?

 「条約交渉」と「条約履行」。両者間のバランスを我々はもう一度考え直す必要があろう。米国を説得できる論理も持たないままでは、それこそやがて米国の「一国至上主義」にずるずると押し切られかねない。そして同盟国間の相克は、「ならず者国家」をますます助長する結果にさえ陥りかねない。

(モントレー国際問題研究所主任研究員)