【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2002 by The Seikyo Shimbun.

アメリカから考える日本の座標軸

【アメリカから考える日本の座標軸 7】
古川勝久


ミサイル防衛を巡り新たな動き

日米共同で対中国戦略協議をはじめよ

(2002年1月15日付)


 米国ブッシュ政権による弾道迎撃ミサイル制限条約(ABM制限条約)からの一方的離脱方針の表明は、同政権の「一国至上主義」的性格の象徴として批判される。しかし最近、これが意外な「副産物」を生み出している。史上初めて中国政府からの申し出により、戦略核ミサイルを巡る米中協議が開始されたのだ。

 昨年9月、上海でのAPECサミットの際、中国は米国に「ミサイル防衛について話し合いたい」と申し入れた。クリントン政権時代にはミサイル防衛に関する対米協議は、たとえ民間レベルでも中国は一切拒否していた。中国側の姿勢に180度の転換をもたらしたわけだ。

 もとよりブッシュ政権の戦略としては、ロシアさえ妥協してくれれば、ABM制限条約から離脱してミサイル防衛構想を推進、他方で攻撃型戦略核戦力を削減して「相互確証破壊(MAD)戦略」から離脱するという、核戦略上の歴史的なパラダイム転換を目指している。

 しかし、これに対しては「中国への配慮が欠けている」とよく批判される。「米国のABM制限条約離脱により、中国は現在の『最低限抑止』核戦略の見直しを余儀なくされ、かえって中国の核兵器近代化を助長しかねない」と。

 対するミサイル防衛推進派の反論は「そもそも中国はABM制限条約の調印国でもないし、米国の政策とは無関係に従来同様、将来にわたっても核戦力を近代化させてゆくつもりだ」。

 たしかにその通りであろうが、中国が核戦力をどこまで近代化するかは米国の政策次第と指摘される。バイデン上院外交委員長(民主党)はブッシュ政権の政策を厳しく批判する。

 いずれの立場にたっても、中国と戦略核兵器に関する軍備管理協議を開始することは極めて重要だ。現状では、核を含む安全保障問題に関して中国政府指導者が十分な説明を受けていない形跡が頻繁に見受けられる。

 中国との高級レベル戦略協議を通じて指導者層に対し、日米が何を問題と考えそれにどう取り組もうとしているのか、直接メッセージを伝えられる。さらに中国側に「宿題」を与えて、それについて真剣に考えて「答え」を出すよう迫ることもできる。

 軍備管理・軍縮交渉では、中国は国際社会から孤立したときにようやく妥協する傾向がしばしば指摘される。包括的核兵器実験禁止条約調印を巡る国際交渉でも、中国は孤立してからはじめて政治的判断に基づいて調印した。

 中国には核兵器の軍備管理・軍縮戦略がまだ確立されていないので、あくまでも政治的判断が必要なのではないか、と分析されている。米国とロシアが戦略核ミサイルを削減する一方、中国のみが核兵器を近代化し増強すれば、国際社会が一致団結して中国を孤立させ核軍縮への圧力をかけることもできよう。

 このために日米両国は一致団結して中国を軍備管理の枠組みに取りこむべく、イニシアチブを主導しなければならない。日米両国はこれまで対テロ協議を優先してきたが、対中国政策にも真剣に取り組むべき段階に入っている。日本には中国との安全保障公式協議の場が二つある(外務省アジア太平洋局の日中安全保障協議、総合政策局軍備管理軍縮課の日中軍備管理軍縮協議)。

 しかし両者間の連携は必ずしもよくない上、肝心の防衛庁がほとんど関与していない。米国と対中戦略協議を進めるにあたり、日本政府内で意見が分裂する事態は避けねばならない。

 ブッシュ政権を「一国至上主義」と批判する前に、日本政府が「一国多様主義」であっては困る。

(モントレー国際問題研究所)