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(2005年4月5日付)
組織犯罪化する現状に対策急げ |
「海賊」と聞いて何を連想されるだろうか。それが冒険物語に出てくる黒い眼帯、腰に短剣という姿であったかどうかはともかく、今どき海賊がと思われた方も多かったはずである。
先月14日、日本船籍のタグボート「韋駄天」がマラッカ海峡で海賊に襲われ、日本人船長ら3人が拉致されるという事件が起きた。幸い事件発生から6日後の20日に3人が無事保護されたことで事件は一応決着したが、今回の事件によって海賊が決して過去の仮想話ではなく、きわめて現実的な問題であることに気づかされる結果となった。
国際商業会議所国際海事局(IMB)の海賊年次報告書によると、2004年に世界全体で起きた海賊襲撃事件は325件。そのうちマラッカ海峡では37件、海峡沿岸国のインドネシアでは、国別としては最多の93件が発生している。全体の4割がこの海域で起きていることになる。
マラッカ海峡は、年間5万隻の船舶、また世界の原油の約5割が通過する海上交通路の要衝であるが、他方で世界有数の海賊多発地帯でもある。海峡が狭くて浅く、多くの船舶が通航することから、速度を落としたところを狙われる格好だ。
この海峡での海賊が増えたのは1990年代後半からで、冷戦終結による米英ロの軍事プレゼンスの低下やアジア経済危機によるインドネシアの社会的混乱の進行などが影響しているという。
このような海賊に対し、「人類共通の敵」と呼んだのはローマの政治学者であり哲学者であったキケロ(前106〜43)であった。近世初頭の自然法思想も、国々の監視が届かないことに乗じて跳梁する海賊に対し、すべての国が協力して海賊を捕え処罰すべきことを説いた。海賊はまさに国際犯罪の原型ともいうべき存在として、国際法上の位置を占めてきたのである。
「海の憲法」ともいわれる「国連海洋法条約」は、海賊行為を公海上における他の船舶に対する不法行為と定義し、普遍主義にもとづいて、すべての国が公海上の海賊船舶に対して拿捕し、処罰できるものとしている。しかし、領海の幅が12カイリに拡大された現在、海賊行為の多くが領海で発生するなど、昨今の海賊は必ずしも上記の枠組みに収まらなくなってきている。
このような中、1985年、同一船舶内で発生したテロ事件であるアキレ・ラウロ号事件を契機に、88年、「海上航行の安全に対する不法行為の防止に関する条約」を採択、海上テロにまで規制を広げた。また、最近の海賊は、金品や積み荷の強奪に加え、身代金目的の誘拐の増加や重武装化など、凶悪化と組織犯罪化が進んでいる。
問題解決のためには、船舶自体による自衛策の強化も必要であろう。しかしそれにも限界がある以上、沿岸国による警備強化とそのための支援、また地域各国間での情報交換や捜査・司法上の協力など、一層の多国間協力が重要となろう。
とくに、マラッカ海峡を通るわが国の船舶は年間1万4000隻にのぼり、わが国の石油消費量の80%が同海峡を通過する船舶によって運ばれている。この現状に照らせば、海洋の安全保障はわが国にとっても死活的問題である。テロ組織がタンカーを乗っ取って港湾施設や石化精製プラントに突入する――。こんな恐怖のシナリオが現実のものとなる前に、対策を講じる必要があろう。
先月20日、国連のアナン事務総長は、「より大きな自由の中で」と題する報告書を公表し、開発、安全、人権と民主化、国連強化という今日の世界が抱える課題について提言を行った。激動する21世紀。私たちはまさに海図なき困難な時代に生きている。そして、国際法も国連も決して万能ではない。しかし、希望を捨てずに航海を続ける限り、それらは「平和」への羅針盤となるにちがいない。その舵を握るのは私たち一人ひとりなのである。(創価大学教授)
なかやま・まさし 1959年、兵庫県生まれ。創価大学大学院博士前期課程修了。専攻は国際法。共著に『地球市民をめざす平和学』、論文に「国際テロと国連安全保障システムの課題――米国による対アフガン報復攻撃と自衛権をめぐる議論を中心として――」など。2000年から2001年まで、ハーバード大学ケネディスクール客員研究員。