
(1998年5月23日付)
通信傍受(盗聴)法を含む内閣提出の「組織的犯罪対策三法案」の国会審議が続いている。とりわけ通信傍受捜査をめぐり、野党側は「法案は人権上問題が多い」と反発している。これまでの審議状況などについてリポートする。(野山智章記者)
五月八日、衆議院本会議で趣旨説明と全野党の代表質問が行われた後、法案は法務委員会に付託された。
同委員会の質疑日程は週三回。原則として水曜日は法案に関係のない、その時々の重要案件を審議する日のため、火曜日と金曜日が法案審議の日となる。
十三日(水)午後の一般質疑終了後に、下稲葉耕吉法相から提案理由説明が行われ、十五日(金)には、他の法案審議の余り時間を使って、自民党委員(与謝野馨)による質疑が行われた。
十九日(火)、自民党以外の各党が、それぞれ六十分の質疑を行った。質問者は民主(北村哲男)、平和・改革(漆原良夫、上田勇)、自由(達増拓也)、共産(木島日出夫)、社民(保坂展人)。各党とも初回の質疑であり概括的な質問がほとんどだった。
二十二日(金)は午前十時から自民党(下村博文)、民主党(福岡宗也、佐々木秀典)が各党六十分間の質疑を行った。
野党側は委員一人当たり最低四時間の審議を要求しており、自民党も内外各方面からの厳しい批判を踏まえ十分な審議時間を確保する必要は認めている。会期末(延長がなければ六月十日)をにらんで、日程的にも今通常国会での成立は難しい情勢だ。
●漆原議員(平和・改革)
通信傍受法案に絞って質問。冒頭、英語で「十人の罪人を逃がすとも、一人の罪無き者を苦しめず」とのイギリス法諺(ほうげん)を紹介し強い印象を残す。この法諺は、日本国憲法の「適正手続保障」の精神を端的に表現していると。すべての市民に「無罪推定」がなされ、刑事手続においても人権が最大限に尊重されねばならないと強調。
「通信傍受法案は、捜査の必要性の視点のみが強調され、人権に対する配慮が著しく欠けている。すなわち通信傍受捜査の対象となる犯罪が、広く一般的な犯罪にまで拡張されている犯罪発生前の通信傍受を認めている別件傍受(特定の犯罪について傍受中に別の犯罪に関連する通信を令状なしに傍受すること)を認めている……中略……以上の理由により、本法案は、日本国憲法が排斥した、犯人必罰の思想に奉仕するものであると考えざるを得ない。警察権の乱用、『警察国家』の再来につながりかねない。
●佐藤茂樹議員(自由党)
本法案による「通信の傍受」すなわち「盗聴」が行われると、憲法二一条【通信の秘密の不可侵】に抵触するとともに、その性格上、被疑者への令状提示や被疑者の立ち会いはありえないため、憲法三三条【逮捕の要件】及び三五条【住居の不可侵】に定める「令状主義」の規定が侵され、市民の権利を侵害することになりかねないと懸念。
「一般市民の通常の通信までが盗聴の対象となる危険性もあり、法案で通信傍受を行う要件としている『特定の通信手段で犯罪の実行に関連する通信が行われると疑うに足りる状況』等の三要件だけでは、歯止め規定にならない」
●首相、法相の答弁
これに対し、橋本龍太郎首相と下稲葉法相はそれぞれ「(傍受の)要件を厳格に定め、必要やむを得ない範囲に限定している」「適正手続、令状主義を取っており、憲法には反しない」と述べた。
●上田議員(平和・改革)
三法案の提案趣旨説明で使われた「組織的な犯罪」、また、組織犯罪の刑罰を重くしてマネーロンダリング(犯罪で得た資金の浄化)の取り締まりを強化する「組織的犯罪処罰法案」に書かれている「団体」の用語の定義を明確にするよう要求。
法務省の原田明夫刑事局長は「組織化された形態で行われ、または犯罪組織の活動に関して行われるなど組織的な犯罪を広く総称する概念」と答弁した。
これに対し上田議員は、ばく然としていて拡大解釈される可能性があり、対象となる団体も暴力団などの犯罪組織以外に労組、政党、宗教団体、NPO(非営利機関)なども含まれかねないと指摘。団体、組織の定義について限定的な条件を加えるよう見直しを求めた。
●保坂議員(社民党)
本法案をめぐっては、自民・社民・さきがけの与党三党内でも意見調整がつかず、二十二回もの連立与党プロジェクトチームでの協議の末、社民党反対のまま“見切り発車”状態で閣議決定された経緯がある。
保坂議員は、通信傍受捜査の大前提として、国民が捜査機関を信頼できることが不可欠との視点から質問した。神奈川県警による共産党幹部宅の盗聴事件では法務省と警察庁の見解を改めて質問したが、盗聴を行った事実は認めず、従来の見解の域を出なかった。
更に、松本サリン事件で第一通報者の河野義行さんに警察が「容疑者扱いして自白を強要した」ことなどについて謝罪を行ったのかと質問。警察庁の深草雅利捜査第一課長は「捜査は適正だった」と譲らず、「特に(犯人扱い)したとは承知していない」と答弁。これには「これで国民の信頼が得られると思うのか」と、率直に過ちを認めない体質に、質問者が声を荒げる一幕もあった。