
(1998年5月9日付)
通信傍受(盗聴)法を含む「組織的犯罪対策三法案」は昨八日、衆議院本会議で趣旨説明・代表質問が行われ、いよいよ国会審議が始まった。ここでは、『盗聴立法批判』(日本評論社)を出版するなど活発な発言を行っている北海道大学の白取祐司教授(刑事訴訟法)と、「組織的犯罪対策法に反対する弁護士ネットワーク」の事務局として活動する海渡雄一弁護士に意見を聞いた。
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組織的犯罪対策三法案の問題点は、通信傍受(盗聴)法を断念するならともかく、これを維持しながら合憲的に立法化するのは、不可能ということだ。
言うまでもなく盗聴捜査は、市民のプライバシーを侵害するものであり、法律的には強制捜査だ。強制捜査は憲法三五条の命じるところによって、令状なしには行えない。盗聴捜査の場合、憲法の要請を満たすような令状主義が果たして可能かどうか問題だ。
第一に、盗聴令状は立会人であるNTT職員等に提示が義務づけられているが、当の会話者への令状提示は事柄の性質上考えられない。これは処分を受ける者に令状の提示を要件とする憲法上の原則に反する。
第二に、裁判官の令状審査の問題だ。これは捜査権の行き過ぎに対する事前チェック、すなわち司法的抑制を及ぼすことで市民の人権が侵されないための憲法上の配慮である。憲法三五条は、令状が正当な理由に基づいて発せられるべきこと、場所、物の明示が必要とされることを規定している。そのためには捜査の対象が何かという「特定」の問題がクリアされなければならない。
盗聴対象は将来行われる会話だから、時期を区切ったり、相手を限定しても、「特定」は極めて困難だ。盗聴する内容も、犯罪にかかわる会話以外のものが多く含まれることが予想される。諸外国においても圧倒的多数の無関係な通話が盗聴されてきた。
こうした点から、裁判官の令状チェックは画餅(がべい)となろう。いわば、捜査官に無制約な捜査方法を与えてしまうことになる。
第三に、今回の盗聴法案は、将来起こりうる犯罪に関する会話も盗聴の対象になっている。これは従来、犯罪捜査と考えられていた概念を超えたものだ。犯罪発生前から捜査機関が市民を監視することを許すことになり、これでは監視社会を招来させかねない。
更に、事後的なチェックにも問題がある。今法案でも一応、国会への報告義務や違法な盗聴が行われた場合の準起訴手続きが明記されている。しかし、国会報告は件数など名目的であり、準起訴手続きも、戦後の裁判所は請求があってもなかなか認めない。権力犯罪に対する裁判所の対応の甘さが改善されないまま、名目だけ準起訴手続きが謳われても心もとない。
盗聴法が施行されれば、組織的な犯罪者は盗聴されるような通信手段は避けるだろう。実効性は乏しく、捕捉されるのは犯罪とは無関係な一般市民の会話だ。
盗聴捜査の主体である警察の体質も問題だ。共産党幹部宅の盗聴事件では、警察の対応に誠実さが見られなかったことが深く憂慮される。(談)
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私は「組織的犯罪対策法に反対する弁護士ネットワーク」の事務局として、通信傍受(盗聴)法など組織的犯罪対策三法案に対して、その危険性を指摘し、立法化阻止のために精力的な活動を続けてきた。
真っ先に取り組んだのは、取り組みが遅れていた日本弁護士連合会(日弁連)に対して、問題の重要性を訴えることからはじめ、市民運動へと反対の声を拡大していった。
また、法案のもつ危険性を平易に伝えるために、昨年六月二十八日の市民集会を皮切りに、弁護士劇『盗聴法が施行された日』をこれまで四回催した。短期間に超党派的なうねりを起こす力になったと実感している。
法務省の主張する、“国際社会の要請ゆえに法案を提出した”とする、いわゆる国際公約論の真偽について触れてみたい。
一九八九年のアルシェ・サミットで設けられた「資金洗浄に関する金融活動作業部会」(FATF)の勧告の中には、たしかに通信の盗聴措置も含まれている。しかし、これには法的拘束力はない。少なくとも盗聴に関する国際的な要請は存在しない。
こうした国際的要請を声高に言うならば、日本は、九三年に国連の規約人権委員会から代用監獄の廃止と被疑者段階での国公選弁護人の実現等の勧告に従うべきだろう。
これは法的拘束力のある国際人権規約に基づいている。更に、先進国中で日本だけが批准していない拷問等禁止条約もある。これらこそ一日も早く実施すべきであって、それらを放置して、人権侵害の盗聴法をというのは明らかに倒錯している。
日弁連は、昨年五月の総会で立法化反対の決議をし、法案の臨時国会提出が予想された昨秋は、慎重審議を求める会長談話を出した。しかし、積極的に反対してきたとはいいがたい。弁護士会内部にも法案成立は必至であり、修正で人権侵害に歯止めをかけるしかないという声もあった。
今年二月三日、ようやく日弁連として「意見書」を出し、法務省案を細かく分析して、明確に「盗聴法反対」の結論を出した。三月六日には日弁連内に「拡大理事会内対策本部」が設立され、活動を始めた。
仮に、修正案についてであれ、盗聴法に日弁連が賛成した場合、盗聴捜査に対する弁護活動で法律の違憲性を指摘することは困難になる。破壊活動防止法の適用を阻止できた一つの理由は、日弁連が違憲性について妥協しなかったことにある。日弁連の態度は、世論形成を含め大きな鍵を握っていると思う。(談)