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連載コラム
「週刊誌ウォッチ・ドッグ」

週刊誌ウォッチ・ドッグ

【39】



“ヒ素事件”一色

背筋が寒い“暴走”と取材合戦

(1998年10月10日付)



 今週はどの週刊誌も「和歌山ヒ素事件」一色だが、読んでみたいと思うような記事は一つもなかった。それでもと思い、ページをめくっていくうちに、なんともいたたまれない気分になってしまった。

 その一つが『週刊文春』の「『毒婦』林眞須美の全悪行!」という記事だ。逮捕されたら何を書いてもいいといわんばかりに、彼女の私生活が洗いざらい暴露されている。なかでもひどいのは「眞須美はなぜカレーにヒ素をいれたか」という小見出しだ。

 ヒ素カレー事件と容疑者との接点が捜査の焦点になっているのはいうまでもないが、いまだその関連がつかめていない段階で、「なぜカレーにヒ素を入れたか」というように断定的に書く(書ける)のか。どう考えても、その理由がわからない。

 捜査より先走りして書くのを、新聞業界では、“とばし”というが、これはその範囲をはるかに越えた“暴走”というほかはない。たぶん〈週刊誌はジャーナリズムではない〉と思っているのかもしれない。そうでも考えないと、うまく了解できないのだ。

 もう一つは『フォーカス』の記事。正確にいうなら、『フォーカス』に掲載されている一枚の写真である。それはある「有名なジャーナリスト」から容疑者宅に送信されたファクシミリの写真だ。その文面を読んで、〈なにがジャーナリストだ〉と思ったのは、私だけではないだろう。そこには「インタビューを願いたく、伏してお願い申しあげます。ご面談時三〇万円持参します」とあるのだ。

 金にものいわせて取材する輩がいるとは聞いていたが、これはまぎれもない証だ。その背後にはテレビや週刊誌がひかえているのはいうまでもなかろう。なりふりかまわない取材合戦もここまできたかと、背筋が寒くなる思いがした。彼らに〈ジャーナリズムとは〉などと、いくら理屈を説いても馬耳東風だろう。事態はそれほど深刻なのだ。

(玉木明・評論家)