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連載コラム
「週刊誌ウォッチ・ドッグ」

週刊誌ウォッチ・ドッグ

【32】



犯人捜しに狂奔するジャーナリズム

噂と匿名に基づく“愚の骨頂”

(1998年8月22日付)



 事件が起きると、マスコミ(とりわけ週刊誌)は、先を競って犯人捜しに走る。が、犯人捜査は警察の仕事であって、マスコミの仕事ではないはずだ。かつてはそれなりの節度が守られていたが、今は全くの無法状態である。これは恐ろしい事態だ。

 『週刊新潮』は、毒物カレー事件(和歌山市)の捜査線上に浮かんできたという「ある男女」の存在を伝えている。が、その男女と事件を結びつける確証は何一つない。

 六十九世帯しか住んでいない狭い地域で起きた事件だけに、住民の不安も大きい。疑心暗鬼にかられて、いろいろな噂(うわさ)が飛びかったとしても無理からぬことだろう。が、噂はあくまでも噂。それを信じる愚かさは、言うをまたない。そうであるなら、その噂に依拠して犯人捜しに狂奔(きょうほん)する週刊誌などは、さしずめ“愚の骨頂”、人権侵害もはなはだしいということになろう。

 匿名の無責任な証言にもとづく犯人捜しも同類である。『週刊読売』の「アジ化ナトリウムで浮かんだ人物の挙動」という記事は、名前こそ出していないが、知る人が読めば、明らかに特定できる人物の存在を伝えている。しかも、その根拠になっているのが、事件のあったザイエンス新潟支店の「事情に通じたある男性」の証言だから、理解に苦しむ。もちろん、その証言が何一つその「人物」と事件とを結びつける確証を提示しているわけではないのだ。それで犯人と名ざされたのでは、たまったものではないだろう。

 ここには、かつての松本サリン事件の河野義行さんの場合と、全く同様の構図が指摘できよう。これではいつまでたっても、マスコミによる冤罪(えんざい)事件はなくならない。

 このような犯人捜しは、本来のジャーナリズムとは無縁であるはずのものだ。週刊誌を含め、マスコミはもう一度、ジャーナリズムの原点に立ち返り、報道の在り方を再検討すべき時にきているのだ。

(玉木明・評論家)