

(1998年5月16日付)
富と名声を誇っていた人が、ある日を境にそのすべてを失い、巷(ちまた)をさすらう人となる。それが浮世のならいだといえばそれまでだが、当人にしてみれば、まさに地獄、筆舌につくしがたい過酷な日々にちがいない。
ひと月前までは、「ルックルックこんにちは」(日本テレビ系)の司会者だった岸部四郎が、『週刊読売』のインタビューに応え、その「逃亡生活」を洗いざらい語っている。
面白いといえば語弊があるが、非常に読ませる記事だった。私も身につまされる思いで読んだ。この不況下、岸部のように窮地に追い込まれ、路頭に迷っている人々が決して少なくないことを思うと、こちらもやり切れない気持ちになってしまう。
岸部の負債総額は五億二千万円、自己破産を申請したが、免責まであと三、四カ月はかかる。それまでは債権者から「カネ返せ」としつこく追い回されることになる。怖いのはそのスジの債権者だったときには身に危険が及ぶこともあるので、身を隠し、逃亡生活を続けなければならない。
「定住する場所がないというのはきついですよ。帰るところがあってのホテル住まいならいいんですが、帰るところがなくて宿泊しなければならないんですからね。この一カ月、ホテルを替えて転々としてきました」
岸部が絶好調のときは、「シローちゃん、おカネ貸してよ」と知人たちが寄ってきた。百万円、百五十万円と気前よく貸してやった。が、その彼らでさえ寄りつかない。まして、「このカネ使ってよ」と言ってくれる人など、だれ一人としていない。世間の冷たさを、今、岸部はかみしめているのだ。
その地獄の日々から抜け出せる日のあらんことを、陰ながら祈りたい気持ちにさせられる。溺(おぼ)れる者を叩(たた)いて商売にするのが週刊誌だが、「驕(おご)れるもの久しからず」「明日はわが身」の例えもある。せめて、その心情を汲(く)みとった記事があっていいのではないか。
(玉木明・評論家)