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ワシントンDC通信


連載コラム
「ワシントンDCの風」
辰巳由紀

【11】 ワイド版


イラク政策に立ち込める暗雲
止む気配ないテロ、抵抗勢力の動き活発

(2003年11月18日付)


ネオコンの論客までが批判

 9月2日付掲載の拙稿「岐路に立つ米国のイラク政策」の中で、ブッシュ政権の対イラク政策に対する米国内での批判が出はじめていることについては既にお伝えした。その傾向はここ数カ月間、強まるばかりである。

 特に、一向に止む気配のないテロ事件に加え、7日の米陸軍ヘリ撃墜事件、12日の駐留伊軍に対する自爆テロ攻撃など、イラク国内の抵抗勢力による活動は激しさを増してきており、それにつれて、ワシントンにおけるブッシュ政権に対する批判も厳しくなってきている。

 来年の大統領選挙を見据えた民主党大統領候補による批判もさることながら、政府からの87億ドルの追加補正予算要求を不承不承ながらも承認した連邦議会からの批判もトーンが高くなってきている。

 ここ最近、週末になるとテレビ各局の政治討論番組で、議会の軍事・外交・情報特別各委員会の幹部議員が民主・共和両党そろって出演して、ブッシュ政権のこれまでの対イラク政策に様々な批判を展開している。

 ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙など、当地の主要紙でも、毎日のようにブッシュ政権のイラク政策を批判する署名記事や社説が掲載されている。

 さらに注目されるのは、ウイリアム・クリストル(ウイークリー・スタンダード誌)、チャールズ・クラウハマー(コラムニスト)など、いわゆる「ネオコン(新保守主義)」の論客として名を馳せている人々でさえ、最近ではブッシュ政権に対する批判を口にし始めたことである。

“ベトナム化”を危ぶむ声も

 彼らは、対イラク戦が始まった当初、ブッシュ政権の方針を「イラクの大量破壊兵器能力が世界に与える脅威の甚大さを考えれば、対イラク攻撃は正当化し得る」とブッシュ政権の政策を強力に擁護してきた。その彼らですらブッシュ政権の対応について批判的な論調を展開し始めるほど、ことイラク情勢に関するブッシュ政権への風当たりは強くなっている。

 ブッシュ政権に対する批判の焦点はいくつかあるが、主なものとしては、イラクの治安状況に関する見通しの甘さ、増加し続ける米軍犠牲者数、膨らみ続ける戦費、が挙げられる。

 特に、最近は、戦闘終結宣言を出す時期が早すぎたのではないか、あるいは国防総省当局はイラク国内の抵抗勢力の力を甘く見すぎていたのではないか、という議論とともに、米軍のイラクからの撤退への道筋がなかなか見えて来ない状況に鑑み、イラク情勢の「ベトナム化(Vietnamization)」への懸念が以前にも増して声高に語られるようになってきている。

 まだまだ米国経済が本格的回復の兆候を見せないにもかかわらず増加傾向を続ける戦費に対する懸念も大きい。

 このような米国の風潮を象徴するかのような出来事が先月起きた。ブッシュ大統領がホワイトハウスで行った記者会見の席上、質疑応答に入った途端、記者団からブッシュ政権のイラク政策に批判的な質問が矢継ぎ早に繰り出され、ブッシュ大統領が対応に苦慮する様子がテレビで全米に放映されたのだ。

治安睨み日本は慎重な判断を

 米国の主要メディアには、一昨年9月11日の同時多発テロ事件以後、こと「対テロ」という冠のつく政策問題に関してはブッシュ大統領および政権への批判を自発的に手控える雰囲気があった。

 そのタブーがここに来て破られたことは、ブッシュ政権のイラク政策に対する国内の苛立ちが相当高まってきていることを意味する。現在、ブッシュ政権はイラク暫定統治機構への統治権限委譲のペースを早めるような動きを見せているが、国内で高まる苛立ちがこれにより鎮静化するか否かは未知数だ。

 肝心の米国がこのように苦慮する現在、日本はいかなる対応をすべきか。

 折しも、12日に自国軍が自爆テロの被害にあったイタリア国内では、「イタリア軍の撤退は当面ない」と表明したベルルスコーニ首相に対し、「対米追随外交だ」「現地の治安情勢に関する判断が甘すぎた。直ちに撤退させるべきだ」といった議論が沸騰しているが、イラクに派遣された自衛隊がこのような被害にあった場合、日本でも同様の議論が出る可能性は極めて高い。15日には北部モスルで米軍ヘリが撃墜され17人が死亡する最悪の事件も起きた。

 既に日本政府は、専門調査団をイラクに派遣することを決めたが、自衛隊の「年内派遣」はあくまでも目途とし、現地の治安情勢を睨みながら、後に禍根を残さないよう、慎重な判断を行っていくべきである。

 (戦略国際問題研究所<CSIS>国際安全保障部研究員)

 たつみ・ゆき 国際基督教大学卒。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号取得後、在米日本大使館で専門調査員として勤務。2000年からヘンリー・L・スティムソン・センター研究員として、日本の外交・安全保障政策、北東アジア安全保障、日米安保、米国の北東アジア政策などについて研究した後、2001年から現職。