![]()
(2003年4月1日付)
イラクへの武力行使が遂に開始された。武力行使開始前は戦闘は早期に終結するというイメージが流布していたにもかかわらず、蓋を開けてみれば、民間人に扮したサダム殉教者軍団によるゲリラ攻撃に思わぬ苦戦を強いられ、警備が手薄な物資輸送部隊が襲われ、と開戦前には予想していなかった事態が続いている。
ブッシュ大統領は既に、戦闘が当初の予想より長引くことについて国民の忍耐を求める声明を発表しているが、このような、いわば不測の事態を招いた原因については、既に米国内の軍事専門家から、ブッシュ政権による情勢の読み間違いに関する指摘がされ始めている。
彼らの指摘は大きく分けて次の2点に絞られる。第1は、サダム殉教者軍団のような民兵組織の戦闘能力を国防省が過小評価していたのではないかということ。第2は、フセイン政権に対する攻撃が開始されれば、イラク国内で多数派を占めながらこれまでフセインに抑圧されてきたシーア派が政権討伐に立ち上がると見込んで開始された武力行使であるにもかかわらず、そのような兆候がこれまでのところ見られないということである。
このような読み違いに対する批判の矛先は現地に展開されている米軍兵士ではなく、制服組の意見をほとんど考慮せずに武力行使を巡る決断をしてきたラムズフェルド国防長官をはじめとする国防省の文民指導者に向けられ始めている。
このような中でイラク情勢を見ていくために考慮すべきポイントは次の2点であろう。
第1に、いかにして可能な限り正確な情報を入手するかという点。
湾岸戦争時、米国は極めて制限された報道体制を導入して、事後に厳しく批判された。現在、戦闘をカバーしている報道陣は、戦闘部隊に同行し、現場で密着取材をするグループと、ドーハの中央軍司令部で毎日行われる戦況ブリーフィングをもとに、より幅の広い視点から取材するグループの二つに分かれている。このため、情報量は湾岸戦争時に比べると遥かに増えているのであるが、一方で、中央軍司令部周辺から出る報道と、密着取材をしているグループからの報道の情報が交錯し、かえって情報の混乱を招いている感もある。このような中で我々が現状を可能な限り正確に把握するためには、できるだけ幅広い情報に目を向ける必要がある。
第2に、米英主導軍が、これまで査察で発見することのできなかった大量破壊兵器及び関連物質を発見することができるかどうかという点である。
実は、この点は、今回の対イラク武力行使の是非を最終的に判断する際の決定的要因であるといっても過言ではない。フランクス中央軍司令官は、初日のブリーフィングで、「イラクが大量破壊兵器を持っているという事実に私は全く疑いを抱いていない」と言い切ったが、今までのところ、化学兵器防護スーツは発見されたものの、イラクの大量破壊兵器保有を決定的に裏付けるようなものは発見されていない。
そのような状況が続いている中で、今後イラクを取り巻く情勢を注視するに当たっては、情報を発信する側にも、情報を受ける側にも、一層の注意が求められよう。(戦略国際問題研究所<CSIS>国際安全保障部研究員)
たつみ・ゆき 国際基督教大学卒。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号取得後、在米日本大使館で専門調査員として勤務。2000年からヘンリー・L・スティムソン・センター研究員として、日本の外交・安全保障政策、北東アジア安全保障、日米安保、米国の北東アジア政策などについて研究した後、2001年から現職。