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ワシントンDC通信


連載コラム
「ワシントンDCの風」
辰巳由紀

【3】 ワイド版


国際機構の在り方が問われている
対イラク武力行使巡る国連、NATOの混乱

(2003年3月4日付)


危ぶまれる米英スペイン共同決議案

 ワシントンの元政府関係者その他の専門家の間では、外交努力を継続するという発言とは裏腹に、ブッシュ政権はイラク攻撃に関しては「するか否か」ではなく「何時、どのように攻撃するか」の検討に入っている、という認識がこの数カ月ですっかり定着している。

 それと共に、特にこの1〜2カ月の国連やNATO(北大西洋条約機構)の動きを受けて浸透しつつある考え方が「今回の問題で国連安保理及びNATOが有効にその機能を発揮できないことが明らかになった場合、ポスト・イラクの国際社会において、国際機構のこれまでのあり方に対する根本的な見直しが必要になる」というものだ。

 特に国連では、イラク情勢への対応を巡り、安全保障理事会の機能が根本的に問われるような事態が発生している。安保理決議1441は何とか全会一致で成立したものの、先月24日に米、英及びスペインが共同提出した決議案を巡っては、安保理理事国の間で歩みよりが見られない。

 イラクが安保理決議1441を遵守せず、右決議がイラクに与えた「最後の機会」を捉えていないと断じたこの安保理決議案が成立するためには常任理事国5カ国が拒否権を発動しないことが必要であるが、現状では中国、ロシア、仏が決議案の内容に反対の姿勢を崩しておらず、採決に持ち込まれた場合、3カ国のいずれが拒否権を投じても不思議ではない。

トルコ防衛でNATO加盟国間に溝

 NATOにおいても、加盟国であるトルコがイラクからの攻撃を受けた場合のNATOの防衛義務に関し、かかる義務をNATO加盟国が否定する事態が生じた。

 最終的には、先月16日にNATOが対トルコ支援を行う旨が決定され、同26日にはトルコにNATO軍の監視警戒機(AWACS)が到着したことで本件は落着したが、本件により米国と欧州のNATO加盟国の間に溝が生じたことは明らかである。

 私は、米国の単独主義・一国主義への傾斜に懸念を有する者の一人であるが、イラク問題をめぐる最近の展開を見ていると、米英側の言い分にむしろ共感を覚える。なぜならば、イラク情勢をめぐる国際社会の対応は、安保理決議という法的拘束力を持つ国際的取り決めを執行する意思があるかどうかを占うものになると思うからだ。

 国際社会の平和を破壊するような行動をとる国に対し、外交的努力が実を結ばない場合、安保理が武力行使も含め断固たる措置をとる決定をすることができ、国連加盟諸国に対し、所定の措置を実施するための協力を求めることができるという事実は国連憲章の第7章に規定されている。

 イラクが湾岸戦争終了以降、一連の国連安保理決議により課された義務を果たしていないことは明確であり、この状態に対して安保理が「査察継続」の名の下に何ら対応を取らないことは、安保理が第7章で定められた権利行使を放棄したに等しい。これでは国際社会の平和と安全を守るために設置されたはずの国連の存在意義が問われかねない。

国際法執行の“手段”としての軍事力

 NATOについても同様のことが言える。NATOは言うまでもなく欧州の集団安全保障体制の要である。この組織が加盟国であるトルコがイラクによる攻撃を受けた場合の攻撃義務に関し、一度でもこれを否定するような動きが存在したこと自体、NATOという組織の機能に疑問が呈されても仕方がない。

 国内法、国際法を問わず、法の執行を確保するためには強制力が必要である。国内法の執行を確保する手段としては各国とも治安・司法当局を有しているが、国際法その他の国際規範の執行を確保するための警察や検察に当たる組織は国際社会には存在しない。

 それでも、国際的取り決めの遵守を確保するためには何らかの強制力が必要であり、時としてその強制力が軍事力をさす場合もある。このような国際社会の状況において国連のように平和と安全を守ることをその主たる任務とする国際機関が国際法執行の任務を放棄する場合、それは国際社会にどのようなメッセージを送るのであろうか。

 確かに、軍事力は軽率に行使されるべきではない。

 しかし、軍事力なしでは解決しえない問題も存在するということを、日本も含め、国際社会ははっきりと認識すべき時に来ているのではないだろうか。

 (戦略国際問題研究所<CSIS>国際安全保障部研究員)

 たつみ・ゆき 国際基督教大学卒。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号取得後、在米日本大使館で専門調査員として勤務。2000年からヘンリー・L・スティムソン・センター研究員として、日本の外交・安全保障政策、北東アジア安全保障、日米安保、米国の北東アジア政策などについて研究した後、2001年から現職。