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ワシントンDC通信


連載コラム
「ワシントンDCの風」
辰巳由紀

【1】


イラク戦争、その影響
長期化した場合は世界経済の後退に

(20031年1月7日付)


 対イラク攻撃がかなり現実味を帯びてきた昨秋以降、ワシントンで議論の的になっている問題の一つに、経済的影響がある。

 米国がイラクに軍事的攻撃を加えるという選択をした場合、米国経済、あるいは世界経済にどの程度の影響を与えるのかという問題は、父親が1992年、前年の湾岸戦争に圧倒的な勝利を収めたにもかかわらず、国内経済停滞により再選を阻まれたブッシュ大統領にとって無視できない問題なのである。

 この問題に正面から取り組んだ会議が、11月、CSIS(戦略国際問題研究所)で開かれた。題して「イラク戦争後:その経済的影響」。CSISの名誉研究員で前米国連銀理事でもあるローレンス・マイヤー氏が企画した会議である。ワシントン内外でも大きな話題になり、英フィナンシャル・タイムズ紙では、この会議の内容をもとにした論説記事が12月23日付に掲載されたほどだ。

 これまでも、議会予算局(CBO)等により対イラク戦争そのものにかかる戦費の試算は行われてきた。この会議の特色は(1)対イラク攻撃が回避される場合、(2)戦闘が短期(6週間以内)で終了する場合、(3)戦闘が6〜12週間継続する場合、(4)戦闘が3カ月を超える場合、の四つの異なるシナリオに基づき石油価格やマクロ経済指標の変動に関するシミュレーションを行い、軍事行動終了後1〜2年の米国および国際経済の見通しを出す試みが行われたことにある。

 シミュレーションの結果、(1)戦闘が長期化するほど、石油価格への影響は大きくなる。(2)戦闘が比較的短期で終了する場合、「戦争特需」とも言える政府支出の一時的な増大などで、経済活動状況はかえって好転する。(3)戦闘が長期化する場合、経済への悪影響は大きくなる。特に、戦闘が余りにも長期化した場合は世界経済の後退につながりかねない、という主要な結論が導き出され、会議で報告された。

 さらに興味深かったのは、対イラク戦争が世界の主要経済に与える影響に関する分析だった。特に日本に関しては、既に対国民総生産(GDP)で大きな赤字を抱えているため、対イラク戦争が開始された場合に経済政策を調整できるほどの柔軟性をもたないであろうという指摘がされ、さらに日本の経済成長見通しについても、戦闘が中長期化した場合には一旦はマイナス成長に落ち込む可能性もあることが指摘された。

 対イラク戦争が日本の経済のみならず世界経済に与える影響は、特に日本経済の現状を鑑みた場合、緊急に議論されなければならない問題である。

 だが、東京から聞こえてくるのは対イラク攻撃に対する軍事的支援の内容やその法的枠組みなど、軍事的側面に偏った議論ばかりである。

 日本が本当の意味で米国の同盟国であろうとするならば、軍事的側面のみに目を向けて独走しがちな米国を、軍事攻撃という選択が世界経済に与える影響や、そこから派生する社会不安など、非軍事的側面にも目を向けた助言を積極的に行っていくべきではないだろうか。

 (戦略国際問題研究所<CSIS>国際安全保障部研究員)

 たつみ・ゆき 国際基督教大学卒。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号取得後、在米日本大使館で専門調査員として勤務。2000年からヘンリー・L・スティムソン・センター研究員として、日本の外交・安全保障政策、北東アジア安全保障、日米安保、米国の北東アジア政策などについて研究した後、2001年から現職。