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ワシントンDC通信


連載コラム
ワイド版 「ワシントンDC通信」
渡部恒雄

【12=完】


戦略専門家らが中東政策見直し提言
一国主義から国際協調主義への転換点なるか

(2001年12月4日付)


 11月27日、筆者の勤務するCSIS(戦略国際問題研究所)は「勝つために(To Prevail)」と題する米国の今後の対テロ・キャンペーンへの総合政策提言集を刊行した。

 ▼政権内のタカ派に対する牽制か

 二人の主筆は、いずれもクリントン政権時代の国防次官補代理で、東アジアを担当していたカート・キャンベルCSIS上級副所長と、戦略および脅威削減を担当していたミッシェル・フローノイCSIS国際安全保障プログラム上級アドバイザーだ。

 このリポートは、対テロへの米国の包括的な長期戦略を論じているが、大規模テロ後の新しい現実を反映し、これまでの現実主義的戦略とはだいぶ趣が異なっている。

 まず提言の冒頭には、国連や他の国際機関との連携による、この冬のアフガニスタンへの緊急人道援助の必要性が説かれ、さらに国際協力体制の維持、アラブ世界における米国の悪いイメージを解消するための広報外交、アフガニスタンのような内戦と貧困にあえぐ「失敗国家」をなくすための対外経済援助の復活などが、軍事力、インテリジェンス(諜報)などの伝統的項目と並んで取り上げられている。これは一国主義と批判されてきた米国の政策の大転換を促すものである。

 現時点で、このような対外協調的な戦略が、今後の米国の対テロ・キャンペーンの指針となるとは単純には断定できない。執筆陣の中心が民主党系であるため、むしろ、ブッシュ政権に対する批判、アンチテーゼではないかと感じる人もいるだろう。

 しかし私は、提言内容はブッシュ政権内でもパウエル国務長官に代表される現実外交派に呼応し、ウォルフォビッツ国防副長官などのイデオロギー色の強いタカ派に対する牽制になるという印象を持っている。

 ▼イラクへの戦線拡大はすべきでない

 ブッシュ政権内では、これまでのところパウエル国務長官らの現実外交派が表に出て、対テロ・キャンペーンへの国際協調体制づくりに努めてきた。しかし、タリバーン勢力が弱まってきた現在、静かだったタカ派がイラクのサダム・フセイン大統領に対する攻撃の可能性を再び取り上げ、ブッシュ大統領もこれを口にするようになってきた。

 実際、米国民の中には、サダム・フセインを諸悪の根源と考える人が多く、最新のABCテレビとワシントンポストの共同世論調査では、78%がサダム・フセインを失脚させるためのイラクへの攻撃に賛成と答えている。

 しかしながら、イラクへの戦線の拡大は、現実の外交では米国がこれまで築きあげてきた国際協調体制を台無しにしかねない危険な賭けである。米国に最も近い存在であるイギリスのブレア首相は、早くからイラクへの攻撃に反対してきたし、かつては武器の取引も行い、現在もイラクとは近い関係にあるフランスとロシアがイラクへの攻撃を懸念している。

 しかも、イラクへの攻撃は、米国が最も神経を使ってきた中東のイスラム国家の支持を失い、現在進めているイスラエル・パレスチナの和平にも、悪影響があるだろう。

 したがって、イラクが明確にテロの支援をしているとか、大量破壊兵器の製造をしているという証拠でも出ない限りは、イラクへの戦線拡大をすべきでないというのが、現実の外交戦略の帰結である。

 その意味でも、この時期に有力シンクタンクが戦略的な協調路線を求める「勝つために」を刊行する意味はかなり大きいと思われる。

 (戦略国際問題研究所〈CSIS〉研究員)