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ワシントンDC通信


連載コラム
ワイド版 「ワシントンDC通信」
渡部恒雄

【10】


アメリカ一国主義の終焉
対テロ取り組みに不可欠な国際協調体制
NATOは集団的自衛権を発動、露・中も協力

(2001年10月2日付)


犯罪から国家安全保障の問題に“格上げ”

 2001年9月11日、ニューヨークとワシントンDCへの同時多発テロが世界のあり様を変えた。冷戦を勝ち抜き、冷戦後も湾岸戦争で圧倒的な勝利を収め、圧倒的な強さを誇った超大国アメリカが、大量破壊兵器どころか銃も使わない非国家勢力のテロリストの巧妙な作戦により、6000人以上の民間人をほんの一瞬のうちに、殺戮されてしまうという悪夢を現実にした。

 このテロの挑戦は、アメリカだけでなく世界の秩序への挑戦であり、日本も例外ではない。これまでは、犯罪として主に警察活動の対象であったテロ行為が、完全に国家安全保障の領域にまで格上げされた。

 しかし、ウサマ・ビンラディン氏が率いるアル・カイーダのような国境を超えた組織をもつ非国家組織が相手となると、これまでの国家対国家の戦争に備えた既存の防衛手段では、それぞれの国民の安全を守ることは著しく困難になる。

 今回の事態の重大さを肌身に感じているヨーロッパ諸国の反応は素早かった。特にNATO(北大西洋条約機構)は創設以来、はじめて集団的自衛権の行使の可能性を宣言した。つまり、アメリカに対するテロ攻撃を、すべてのNATO諸国への攻撃とみなし対処することにしたのだ。

 極端な軍事報復による暴走抑える狙いも

 自国内にイスラム原理主義の反政府運動を抱えるロシア、中国も素早くアメリカへの協力の意思を示したし、パレスチナ解放機構のアラファト議長がテロリストを非難し、アメリカからテロ支援国家と指定されているリビアを含む多数のイスラム国家が、テロを非難する声明をだした。

 このようにアメリカに対するかつてない大きな支援の裏には、既存の国家がいかに今回のような狂暴なテロを行う非国家のグループを脅威と感じているかという事実がある。そして、そのようなテロリストの脅威を除くためには、超大国アメリカとその力を背景にした国際的な取り組みで、テロ組織のネットワークを壊滅させるしか現実的な手段がないのである。

 またそれと同時にブッシュ大統領が極端な軍事的報復をおこない、報復の応酬による戦争の拡大という悪夢を恐れるがゆえに、アメリカを囲む協力体制を作り暴走を防ぐという一面もある。

 一般人の犠牲招くアフガン大空爆はない

 9月11日のテロ直後の日本において、アメリカの姿勢について誤解されていたことが一つある。それは、直後のアメリカ政府の好戦的なレトリックだけを見て、アメリカが今にも大量の報復として、テロリストをかくまうタリバーンのアフガニスタンに大規模な空爆を仕掛け、罪のない一般人の犠牲がでるというような懸念である。

 それゆえにアメリカへの協力は慎重にという声が多かったように思われる。しかし、アメリカがこのような一方的措置を取り得ないことは、今回のテロの性格と、軍事的な常識を考えれば理解できる。

 まず、今回のような非国家勢力が相手であれば、空爆の目標は限定される。特にソ連の侵攻から引き続く内戦で荒れ果てた国土に空爆の対象になるようなものはない。

 しかも、自由、民主主義というイデオロギーを掲げて対テロ包囲網を作ろうとしているアメリカが、一般市民に大量の犠牲者を出すことは、国際的にも国内的にも批判を浴びることになる。これではせっかくアメリカの下に集結している対テロの包囲網を犠牲にする最も命取りな行為となる。

 テロ発生後2週間を過ぎた最近では、ブッシュ政権は初期の軍事報復の強調から、むしろ、テロリスト組織を包囲、壊滅するための外交努力へ徐々にそのスタンスを移してきている。

 9月27日には、政権上層部でもっともタカ派のウォルフォビッツ国防副長官ですら、ビンラディン氏とそれを擁護するアフガニスタンの勢力への軍事攻撃はいますぐの話ではなく、彼らの所在がどこかという情報活動を強化する必要性を訴えている。

 そして、ビンラディン氏に関する情報を多数持つ4カ国のうち、中国、ロシアとの協力関係をつよめ、パキスタンの一部協力を得、現在イランにもアプローチしている。またビンラディン氏のグループの資金源を絶つために多くの国に協力を要請している。

 国連嫌い脱却、下院は分担金支払い可決

 ところで、筆者はこの欄で、7月にはアメリカの一国主義的傾向、8月にはアメリカ議会の国連嫌いの問題を指摘してきたが、皮肉にも今回のテロと、アメリカの意外な脆弱性が、アメリカの一国主義的傾向に歯止めをかけることになった。

 上記でみたように、今回のような国境を超えるテロリスト集団に対しては、アメリカの軍事的な優位性は全く効かず、むしろ国際的な協調体制が、自国の目標達成に重要になってくるからである。

 9月24日には、アナン国連事務総長が、国際機関における対テロへの取り組みの重要性を訴えた数時間後、米下院は、懸案だった5億8200万ドルの国連の分担金の支払いを可決した。

 この可決に力をふるった民主党のトム・ラントス下院議員は、アメリカ一国では今回の長く痛みをともなう国際テロとの戦いに勝つことはできないのだから、アメリカは国連の外交機能を上手に利用せよという現在の議会の意見を代弁している。

 アメリカに劣らず、日本の政策も難しいが、対テロリズムへの国際協力の構築をすることこそが、自国の利益にかなうということは言うまでもない。

 (戦略国際問題研究所〈CSIS〉研究員)


略歴  わたなべ・つねお 1963年、福島県生まれ。東北大学歯学部卒。米国ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士号取得。現在、米国の有力シンクタンクにおいて、アジアの安全保障と日本政治の研究に携わる。論文「シビルミリタリー関係の向上で空気支配を防げ」で第3回読売論壇新人賞の佳作入選。