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ワシントンDC通信


連載コラム
「ワシントンDC通信」
渡部恒雄

【1】


ブッシュ新政権の多難な船出
カギ握る超党派協力の成否

(2001年1月9日付)


 アメリカでは今年、八年間の民主党クリントン政権に終止符をうち、ブッシュ共和 党政権が一月二十日の就任演説から始動する。政治の街ワシントンでは、この政権の 船出には特別な関心が持たれている。

 ▼上院は、共和50対民主50議席で伯仲

 それはアメリカ民主主義を揺るがした史上初の一カ月以上に及ぶ法廷闘争とそれに よる党派対立の影響に対してである。しかも、大統領選挙と同時に行われた議会選挙 において、共和党と民主党の議席数が、上院では史上初めて五十対五十の同数にな り、上院議長である副大統領の一票だけの共和党の過半数という伯仲した議会が、そ の緊張を高めている。

 ワシントンのシンクタンク業界に在籍する利点の一つは、様々な政策セミナーへの 招待が、非常にタイムリーに舞い込んでくることである。新年早々の一月四日、私は 勤務先のCSISの副理事長アブシャイアー氏が所長を務める大統領学研究所主催の セミナーに出席した。首都の玄関、ユニオン駅内の会議場で行われた「第四十七代大 統領と第百七回議会」と題されたセミナーは、この多難な新政権の船出を占うにはう ってつけのものであった。

 民主党との融和のための超党派のシンボルとして、早くからブッシュ氏に政権入り を口説かれていた民主党のジョン・ブロー上院議員と、やはり政権入りに名前が挙が っていた共和党のチャック・ヘーゲル上院議員がセミナーの主役であった。ブロー議 員は、与野党協力の必要性と、上院における二十七人の超党派の中道連合の重要さを 語り、教育改革法案や患者の権利擁護法案など民主党から協力可能な法案に対して、 きわめて前向きな姿勢を語った。

 ヘーゲル議員も、「ブッシュ政権の最大の優先事項は、(民主党との)信頼の橋を 作り上げることだ」とこれに答えた。さすがに、両党のエース級の議員らしく見事な 話術で会場をもりあげたが、彼等の真剣さは、議会のリーダー達の党派対立による閉 塞状況への危惧を痛感させるに十分であった。

 党派対立の融和を提唱するブッシュ次期大統領は、重要閣僚に民主党員を配置する 超党派政権を模索したが、サム・ナン元民主党上院議員(現CSIS理事長)やブロ ー上院議員の起用を果たせず、最終的に日系のミネタ商務長官を迎え、現在さらに民 主党のリー・ハミルトン元下院議員の国連大使への起用を検討中のようである。

 ▼第19代ヘイズ大統領との類似点

 その十四人の閣僚のうち、白人男性は半分に達しない六人という共和党政権らしか らぬ多様さで、保守的な信条で有名なアシュクロフト司法長官(次期)から妊娠中絶 容認の穏健派、ホイットマン環境保護局長官(次期)まで、政策的にも人種的にも多 様な顔ぶれとなった。

 このブッシュ政権の性格について、ヘーゲル上院議員は、ホワイトハウス主導で政 策を遂行していたクリントン政権に比べて、閣僚主導の政権になるだろうと語ってい た。たしかに、チェイニー次期副大統領は元国防長官、ラムズフェルド氏は二度目の 国防長官、パウエル次期国務長官は元統合参謀本部議長と、いずれも過去にアメリカ 外交政策を主導する国家安全保障会議のメンバーであった人達であり、かつてない重 い布陣である。

 しかしブッシュ氏にとっては、議会との対決だけではなく、この重く多様な閣僚を どうコントロールしていくかという課題も待ちうけている。一般得票数でゴア氏に三 十三万票ほど水をあけられているブッシュ氏には、世論の強い支持も期待できない上 にハイテク株の低迷に象徴される米国経済の翳(かげ)りが将来に暗い影を投げかけ ている。

 セミナーを終えてユニオン駅のコンコースにでると、新大統領選出にちなみ、歴代 四十六人の大統領の肖像とその業績が展示されていた。私の足は自然と、第十九代大 統領ヘイズのコーナーに向かった。

 彼は一八七六年に民主党候補ティルデンと史上に残る大接戦を演じ、現在のブッシ ュ氏のように、相手候補より二十五万票少ないながらも選挙人獲得数で勝ち、かろう じて選ばれた大統領である。その際も、今回のように開票結果に対し両陣営の疑惑が 持たれたが、南北戦争の傷跡がいえない深刻な党派対立と政治ボスの暗躍があり、共 和党は、民主党側が望む南部の人種差別政策の継続と引き換えという裏取引で票を確 定させた。

 ヘイズ自身は大変立派な人物で、強力な閣僚を選び、このような政治の腐敗権力の 影響から脱するための努力を行うが、政治ボスが牛耳る議会との関係調整に最後まで 苦労した。大統領引退後は、政治取引の犠牲になった南部の黒人の教育に尽力したと いうことである。ブッシュ氏は前途多難だが、ヘイズに比べればはるかに条件はい い。政治家としての腕の見せ所である。

 (戦略国際問題研究所〈CSIS〉研究員)