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連載コラム
「米国メディア時評」

米国メディア時評

【26=完】



日本の戦争犯罪は米ではどう報じられているか
もはや無視できなくなったアジア系市民の声

(1999年12月18日付)



「真珠湾奇襲」記念日に合わせた“攻勢”は不発に終わる

 一時、大きく報道されていたアメリカにおける対日戦争責任追及の動きも、ここに きて若干、小休止状態に入っている。

 真珠湾奇襲から五十八年目に合わせて新たに日本企業に謝罪・補償を求めた「多国 籍集団訴訟」が出されたが、全米的に大扱いにされた形跡はなく、目立ったのは『ロ サンゼルス・タイムズ』(十二月八日付)が三ページに写真付きで報道したぐらいの ものだ。 【表】米連邦議会に今秋提出された対日戦争責任追及法案・決議案

 聞くところによると、訴訟を担当した弁護士や中国系活動団体は、タイミングを 「真珠湾奇襲」記念日の同時刻に合わせて裁判所に訴訟手続きをし、カメラの放列の 前で多国籍被害者による新たな集団訴訟の発表をしようとしたらしい。そのために主 要メディアには事前に訴状から関係資料など大量に送りつけたり、電子メール攻勢を しかけたがどうやら「笛吹けど躍(おど)らず」だった。

 米メディアの大方の編集者には「問題は裁判所がどんな判断を下すのか、また日本 企業や政府がどういった反応を見せるかで、新たにいくら訴訟が出てもニュース価値 はあまりない」と受け止められたのが、冷たい扱いの原因らしい。

 だからといって米メディアが基本的に元米兵捕虜や犠牲者による対日要求に関心が 薄れたのかというとそうではない。日本側の言い分に同調したから「撃ち方やめ」と いうわけでもない。

「人権」と「自由」の侵害に“言い訳は許さない”不文律が

 なぜか。「人権」と「自由」はアメリカ人にとっては侵すべからざるスローガンと なっている。

 「人権を侵したものがいる」「自由を奪ったものがいる」といった事実が少しでも 明らかになると、それが何十年前のことだろうと、アフリカの奥地で起こったことで あろうと、見逃すわけにはいかないという米メディアの信念のようなものがある。

 銃による殺人事件は米社会では日常茶飯事化し、メディア報道もマンネリ化してい る印象を受ける。それにもかかわらず、こと国家権力やそれにかかわり合いを持った 軍隊や企業による強制労働、人権弾圧、虐殺、強姦といったことになると、米メディ アには「言い訳は許さない」という不文律があるようだ。

 今ひとつ指摘すべき点は、戦後アメリカに渡り住んだ多くのアジア系が今やカリフ ォルニア州などの各層で勢力を持ちはじめたことだ。

 日本政府とアジア各国政府との間で謝罪と補償が済んでいるとしても、彼らの受け た戦争の痛みはいやされてはいない。自分たちの祖国の政府は、彼らに代わって公 (おおやけ)には対日要求などはしてくれない。アジア系被害者たちが安住の地と決 めた「超大国アメリカ」の力にすがりついて恨みつらみを晴らそうとしている。米メ ディアは、もはやこれらアジア系アメリカ人の声を無視できなくなっている。

日本企業への償い求める法廷闘争とPRが活発化へ

 こうした米メディアに影響を与えてきたのが、中国系アメリカ人作家、アイリス・ チャン氏の著『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』である。それまで、ほそぼそと行われ ていた対日戦争責任追及デモが、この本のおかげでアメリカの知的主流でも取り上げ られるようになった。これを機に、各地の大学でもシンポジウムが盛んに行われるよ うになった。そしてその余勢を買ってシンポジウムの「常連」が日本にも上陸した。

 十二月十日には謝罪・補償追及運動を続けてきた中国系アメリカ人活動家、訴訟を 担当する弁護士、学者、地方議員らがこぞって訪日し、東京と大阪で日本側活動家た ちと行ったフォーラムに参加したのだ。

 ところが、これらのフォーラムについては、米メディアはいっさい沈黙している (十二月十五日現在)。同フォーラム出席のために訪日したエド・ファーガン弁護士 (ドイツ、スイス企業を相手どった強制労働訴訟を担当してきた人物)のコメントを 東京発で送った通信社がある程度だ(八日付ロイター通信電)。

 十二月十日前後といえば、米メディアの東京特派員は雅子妃殿下の懐妊騒ぎでそれ どころではなかったからかもしれない。

 来年早々から日本企業を訴えた元米兵捕虜たちの集団訴訟が裁判所を舞台に動き出 す。それと同時に原告団や活動家たちによる「法廷外」のPR活動もますます活発化 するだろう。これに米メディアがどう反応を示すのか。それがまた法廷闘争に相乗効 果をもたらすことになる。いったん火がつくと、政府も裁判所も手がつけられなくな るのが米メディアである。

(高濱賛・在米ジャーナリスト)


略歴  たかはま・たとう 1941年、東京都生まれ。米カリフォルニア大学卒業。67 年、読売新聞社入社。ワシントン特派員、政治部総理官邸、外務省、防衛庁キャッ プ、政治部次長を経て調査研究本部主任研究員。95、97年と読売新聞社から派遣 されてカリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院客員教授(日本報道 論)、98年から同上級研究員。著書に『中曽根外政論』『レーガンの次は誰か』 『行政改革』など。明年1月、『新「憂国論」』を上梓の予定。