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連載コラム
「米国メディア時評」

米国メディア時評

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“編集権の壁”を守ったLAタイムズ記者たち

(1999年11月6日付)



 「エディトリアル・ウォール(編集権の壁)」。例え社長といえども、超えてはならない一線のことをいう。いわば、新聞が公器として存在する上で最も重要な砦(とりで)である。発行人がその壁を破るとどういうことになるかを、まざまざと見せつける事件が有力紙『ロサンゼルス・タイムズ』で起こった。

 ことの起こりは、今春、発行人に就任したばかりのキャサリン・ダウニング氏が利潤追求しか考えていなかったのか、同紙が出している日曜版の付録雑誌に一企業のプロジェクト特集を組む契約を結び、実際に印刷まで済ませていたことにある。

 発送寸前でこれを知ったライバル紙、『ニューヨーク・タイムズ』『ウォールストリート・ジャーナル』がいち早く報道したからたまらない。直ちに三百人の同紙記者たちが発行人との緊急会合を要求、新聞社のもつ報道の倫理について発行人に厳しく問いただした。

 ダウニング氏が「私の新聞に対する知識のなさと経験不足から出た新聞倫理についての根本的な無理解」と謝罪して同件については一応のけりはついた。もっともこの会合ではベテラン記者から「あなたはジャーナリズム大学院に通って、なんぴとも侵してはならない編集権や新聞の倫理について勉強してきたらどうだ」などと厳しい発言もあって、責任をとって辞任する可能性もまだまだ消えていない。

 問題のプロジェクトはロス市中心街に建設されるスポーツ娯楽センターで、主要出資者が大手ビジネス文房具の「ステイプル」社。発行人は同プロジェクトを特集で扱うこと、その代償としてステイプル社の広告のみを掲載、二百万ドルの収入を得ることになっていた。

 一社からだけの広告を載せ、そのために提灯記事を記者たちに書かせるといった話はまさに前代未聞。もっとも社内で記者たちが発行人を弾劾(だんがい)できるだけ同紙はまだ健全である。

(高濱賛・在米ジャーナリスト)