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連載コラム
「米国メディア時評」

米国メディア時評

【14】



1枚の写真が与えた衝撃とその反応

(1999年7月17日付)



 いかにインターネット時代に突入したとはいえ、新聞に掲載された一枚の写真が与える インパクトに勝るものはない。

 さる六月十五日、フロリダ州の『セント・ピータースバーグ・タイムズ』が特集ページ の一面に載せたカラー写真はその意味ではこの典型と言える。

 口を開けたままベッドに横たわる茶褐色の男。痛み止めのキモセラピイのためか、頭の 毛はすべて抜け、その形相はもはやこの世のものとは思えない。ベッドの横には若い妻と 二歳になる男の子が抱き合って泣いている。

 この男は、ブライアン・リー・カーティスさん(34)。肺癌の末期症状だった。この写真 の撮影を最後に息を引き取ったという。

 「どうか私の変わり果てた姿を新聞に載せてください。タバコがいかに私の体をぶち壊 してしまったか、を皆さん知ってください」

 それが彼の遺言だった。

 十三歳の時から二十年間、毎日二箱のタバコ。変調を来したのは死の二カ月前の五月。 直ちに入院。癌細胞は肺全体をむしばんでいた。それでもタバコはやめられなかった。う めくように母親に言った。「新聞社のカメラマンを呼んで。私の変わり果てた姿を新聞に 載せるように言って。皆、タバコはやめなさい、って」

 駆け付けた新聞記者とカメラマンはペンとカメラで彼の最期を見取った。そして明くる 日の紙面には前述の写真がでかでかと掲載されたのだ。

 社会部長のシェリル・ロビンソン氏は言う。

 「プライバシー保護についてはなんども考えました。癌で死んでいく人は毎日います。 しかしカーティスは違う。死ぬ前に市民に伝えたい、自分の醜い最期の姿を見てくれ、と 言っている。それに新聞として応じたまでです」

 読者の反応はどうだったのか。翌日に届いた電子メールや電話は二百件。そのほとんど が「よくぞやってくれた」「彼のめい福を祈って基金を作ろうじゃないか」といった肯定 的なものばかりだったという。

 今やアメリカでは完全な悪者に成り下がったたばこ会社からは、なんの反応もない。  時にはプライバシー擁護とか営業妨害などといったタブーをぶち破る。アメリカの新聞 にはしたり顔の現状維持主義はない。

(高濱賛・在米ジャーナリスト)