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連載コラム
「米国メディア時評」

米国メディア時評

【10】



ジャーナリストにとっての情報源秘匿とは

(1999年5月29日付)



 これまで先進民主主義国の多くのジャーナリストたちには「たとえ刑務所にぶち込まれ ても情報源は明かさぬ」といった気概(きがい)のようなものがあった。

 役所や大企業が犯した不正を暴(あば)くには、どうしても部内通報者の協力がなけれ ば難しい。情報源は絶対に明かさないことを条件で彼らの協力を得てきた。その記者はむ ろん法律で罰されるが、裁判も「報道の自由」ということで大目にはみてきた。それで刑 を受けるならそれもまたジャーナリストの「勲章」だった。

 この約束事が記者の側によって一方的に破られる事件がこのほどオハイオ州の地裁で起 こったのだ。

 情報源を明らかにしたのは、地元チキータ食品会社の中南米での不正取引などの疑惑を 報道した『シンシナチ・エンクワイアー』のジョージ・ガラファー記者(40)。

 情報源はチキータ社の元顧問弁護士で、不正取引を記録した電子メールの暗号を同記者 に教えていたという。

 もっともこの事件のおかしいのは、チキータ社から抗議を受けるや、同紙は真相究明に はいっさい触れずにただちに謝罪。一千万ドルの損害賠償を支払い、返す刀でこの記者を 解雇、さらに盗聴法違反などで彼を告発したことだ。

 そして四月五日の審理で同記者は検察側の尋問に「チキータ社内の電子メールの暗号を 教えてくれたのは……」と情報源をあっさりと認めてしまった。情報提供者は盗聴法違反 で逮捕された。

 「この記者は自分の『特権』を放棄することで米ジャーナリズムにとって取り返しのつ かないダメージを与えてしまった」(B・コバック・ハーバード大学教授)というべきか 。

(高濱賛・在米ジャーナリスト)