(2003年6月17日付)
あるべき対北朝鮮政策とは 関係諸国で“共通基盤”構築し交渉へ 核拡散、麻薬密輸、大量破壊兵器の輸出を懸念 |
13日(日本時間14日)、ホノルルで開かれた対北朝鮮政策に関する日米韓3カ国の局長級調整会合(TCOG)は、北朝鮮の核問題に関する米国、中国、北朝鮮の多国間協議に「日韓両国が参加することが不可欠」とする共同声明を発表し2日間の日程を終えた。声明では、麻薬取引や通貨偽造など北朝鮮の不法行為を阻止するため日米韓が他国と協力する方針を示したことが特記されよう。ここでは、ブッシュ政権の北東アジア政策に影響力を持つジェームズ・リリー元駐韓・駐中国大使に話を聞いた。(野山智章論説委員)
――日本は拉致問題もあり北朝鮮に厳しい姿勢をとっており、政策上、他にあまり選択肢がありません。しかし、現状を打開するために何らかのインセンティブ(誘因)を与えることも手段の一つです。人道的支援を行うことで、対北交渉の膠着状況を打開できるでしょうか?
それは、完全に認識を誤ったアプローチだと思います。こちらが何か見返りを得られるまで人道支援するべきではありません。人道的支援により北朝鮮から譲歩を引き出そうとする政策は、1990年代に幾度となく繰り返され何度も失敗しました。仮に今回、支援を施してもまた失敗に終わるだけでしょう。
重要なのは北朝鮮の戦略にいちいち過敏に反応してはいけない、ということです。これまで、北朝鮮は様々なカードを使ってきました。使用済み核燃料棒の再処理開始の宣言、核爆弾保有宣言、国際原子力機関査察官の追放、核不拡散条約からの脱退宣言、米軍機へのミサイル・レーダー・ビーム照射……。
これらのカードを使い危機のボルテージをどんどん高めて相手の動揺を誘い、その後でわれわれを少し安心させるような公式声明を発表したりして、ほんの少しだけ危機を回避できるような態度を示す。これが北朝鮮の常套手段です。
――北朝鮮の核問題にはどう対処すべきか。
米国の力強さに過信しているわけではありませんが、詰まるところ北朝鮮というのは崩壊寸前のところをギリギリで生き延びている国家だということを認識しておくべきです。そのような国家が偶然「核」という武器を手にしていますが、実際に使用することすらできません。
米国が北朝鮮に対して最も懸念していることは核の拡散です。特にテロ組織やテロ支援国家の手中に渡ることが最大の懸念です。これを何とか止めなければなりません。北朝鮮の麻薬密輸や大量破壊兵器の輸出などを、すべての国々が一丸となって阻止せねばなりません。
北朝鮮のような相手と対峙するには、まず戦略を立てることです。ここで重要になってくるのは中国の役割です。北の核・ミサイル問題で、中国から北朝鮮に経済的圧力をかけてもらい、建設的な役割を担ってもらう好機が訪れています。今まで、中国は北の核問題に関して傍観者を決めこんでいた感がありましたが、現在の危機的状況がその姿勢を変えさせたのです。すでに中国はかなりその方向性で動き始めていると思います。
――中国の対北朝鮮政策に変化が見られると……
北朝鮮に対する中国の伝統的な基本姿勢は、北朝鮮という社会主義国家を維持させることで「緩衝地帯」を形成し、米国と同盟関係を持つ韓国主導型の統一国家が朝鮮半島に誕生するのを防ぐことでした。よってどれほど北朝鮮が問題を引き起こしても、そのような結末を回避したいがゆえに、今まで黙認してきたわけです。
しかし、ここ数カ月の北朝鮮の姿勢から、どうやら中国はその基本線を再考し始めたようです。核、ミサイルの問題が度を過ぎて深刻になり、それが中国の国益を脅かしているからです。北朝鮮の経済も下降線を辿るばかりで、もはや「緩衝地帯」としての重要性は失われてきていると中国はみているようです。
第2の大きな問題点は北朝鮮から流入してくる難民です。旧満州地方には400万人の北朝鮮難民が居留しています。北朝鮮は中国に対し、石油や食料支援を停止すればこれら難民が飢餓に陥ると主張しゆすりをかけてくるのです。これも中国の国益を損なう大きな脅威となっています。
北朝鮮に対する中国の姿勢は、時間をかけてゆっくりと変化していくでしょう。しかも、それは経済制裁ではなく、石油供給を3割減らすなどの形で表れるはずです。他の国々がもはや北を支援していないため、北は中国との貿易に頼り切っています。死に物狂いで対中関係の改善を図ろうとするはずです。常套手段である挑発行為や脅しを試みるでしょう。
しかし、ここで忘れてはなりません。たしかに北朝鮮は危険ですが、潜水艦も戦闘機も稼動できないほど軍事的には無能な国です。昨年の経済改革も完全な失敗に終わりました。この悪化する一方の状況は、やがて軍や特権階級とその家族にも影響するでしょう。
こうした中、重要になってくるのは同盟国間の一致団結した連係です。北朝鮮に対して日韓米中が団結した姿勢で対応しなければいけません。
――一部で取りざたされている北朝鮮の核施設への米国の限定的軍事行動についてどう考えるか。
不可能でしょう。軍事的解決はありえません。軍事行動に踏み切った場合、韓国側の犠牲者数は計り知れません。そういう恐れがあるなか韓国が米国の軍事行動を容認するはずもないし、米国は周辺諸国の承認なしに先制攻撃することはありえないと思います。北の弱点はあくまでも軍事ではなく経済なのです。
――金正日政権を支える財源のうち、麻薬密売などの犯罪行為から捻出される資金がかなり大きい。周辺諸国の協力で歯止めをかけられるのでは。
韓国や日本が米国と協力して、北朝鮮船舶への船舶検査や臨検を行えば、麻薬の密売ルートや大量破壊兵器の輸出を遮断することができます。そしてロシアや中国とも協力すれば、北の空路輸出を監視することもできるでしょう。このような国際協調体制で北朝鮮の財源を大幅に削減できます。特にミサイル輸出の阻止や、食糧・重油の供給削減は、北にとってかなりの打撃となるはずです。
――では経済制裁から始まるという見方ですか。
いや経済「制裁」ではなく、経済的「圧力」になるでしょう。北への重油供給を中止するのに、国連の経済制裁など必要ありません。我々が支援を打ち切ればよいだけの話です。静かに水面下で、事実上の経済制裁に近い活動が展開されるでしょう。このような圧力を北は十分理解すると思います。
国連がこの問題で何らかの役割を果たすとすれば、安保理において北朝鮮の大量破壊兵器の拡散は国際社会の脅威とみなし関係諸国が相応の行動を取る、という決議を採択するシナリオが考えられます。この決議であれば、中国も受け入れるでしょう。これで、北の船舶や飛行機を止めたり、部分的海上封鎖を行う活動を正当化できます。
――ブッシュ政権の対北朝鮮政策の特徴は。
ブッシュ政権は北朝鮮とのやりとりのルールを変えようと試みています。前政権では、北朝鮮が危機を生み出しても、回避させれば見返りを与える方針を採用していました。現政権の立場は違います。北が問題を引き起こせばむしろ直接的行動に訴えるという強い姿勢を打ち出しています。
これが北朝鮮を非常に厳しい立場に置いているのです。北朝鮮は何とかして前政権のやり方に引き戻したいと考えています。しかし、イラクの場合とは違って北朝鮮問題では、国務省は同盟関係の管理を最重要視しており、関係諸国間の共通基盤を構築してからはじめて北と交渉開始するという方針です。このことは今後も揺るぎなく維持し続けられるでしょう。
James R.Lilley イェール大学卒、ジョージ・ワシントン大学大学院修士課程修了。国務省の東アジア担当次官補代理を務めたあと、1986年から韓国駐在大使、89年から91年まで中国駐在大使。その後も国防次官補などを歴任した。現在はアメリカン・エンタープライズ政策研究所の上級研究員。