(2003年5月20日付)
北朝鮮「核問題」の見方 危機を深刻化する“瀬戸際外交” 米朝間を仲介する中国の大きな役割 |
米国を訪問した韓国の盧武鉉大統領は14日(現地時間)、ホワイトハウスでブッシュ大統領と初の会談を行い、北朝鮮の核問題をめぐり「平和的解決」を目指す方針で一致した。日本にとっても、安全保障上の大きな脅威となっている北朝鮮に対する政策のあり方について、米国の有力シンクタンク外交問題評議会のエリック・ヘジンボサム上級研究員に話を聞いた。(野山智章論説委員)
――イラク戦争は北朝鮮にどの様な影響を与えたと分析していますか?
国際情勢が北朝鮮へ与えた影響を分析するのは常に困難です。しかしブッシュ政権は、イラク戦争において実証された米国の力の「デモンストレーション効果」が北朝鮮に大きなインパクトを与えていると考えています。
ここでいう「デモ効果」とは、米国は、北朝鮮のように大きな軍事力を保持する国家であろうと、体制転換を実行する程の強大な力を持っている、という力の誇示から生まれる効果のことです。
この効果の程については、一方で多国間協議が実現されたことからうかがえるように一定の成果があったと米政権は主張していますが、逆に北朝鮮側の強硬派の態度をさらに強めてしまった、という見方もできます。私はその意見には懐疑的ですが、少なくとも、米国の力が金正日政権内での今後の政策の方向についての議論を刺激したことには間違いないでしょう。
――北朝鮮の核問題解決に向けて、中国はどのような貢献ができると考えていますか?
中国は大きな役割を果たしているといえるでしょう。
第1に、米国・北朝鮮両国の顔を立てる役割を担ったことです。北朝鮮は2国間協議を主張し、米国は多国間、と行き詰まりの様相を呈していたところで中国が仲介者になり、協議の場を提供するという役割を果たしました。
第2に、中国の貢献度はここだけにとどまらず、北朝鮮に多国間で話し合うことを説得する役をこなしたのも中国でした。中国指導部は現在の北朝鮮の状況を非常に危機的に捉えているのでしょう。政策的に中国の指導部は確固たる姿勢を打ち出していませんが、北の核は中国にとって大きな問題であり、多大な懸念を抱えているのは確かでしょう。
――現在の核危機が武力衝突に発展する可能性はどのくらいあるのでしょうか。
北朝鮮・米国、お互いの出方によります。
まず第1に、北朝鮮がプルトニウムの再処理に踏み切った場合、ワシントンで大きな論争が起こり、米政権は国務省・国防総省の意見の対立を越え、確固たる姿勢を打ち出さなければいけないでしょう。その時点で、日本や韓国の立場は関係なしに武力行使を推進する声が強まるのは間違いありません。武力衝突の確率は30〜40%くらいでしょうか。
第2に、ブッシュ政権の戦略の方向性を考慮しなくてはいけません。交渉をベースにして核危機の脱出を図るのか、そうではないのか。現在の国務・国防総省間の対立のため、確かな方向性は見えてきません。しかし、大半の米政府関係者は、米国はどの方向に進もうとも北朝鮮が自ら間違いを犯し文字通り墓穴を掘るだろう、という点で一致しています。
その過程において、北朝鮮との交渉の是非で異論は存在しますが、北が自ら危機のボルテージを高めていけば、日本や韓国などの周辺国家が米国側に傾き、経済制裁や海上封鎖はもちろん、武力行使を実行しやすい環境が形成されていく、と米国は考えています。
――クリントン政権が北朝鮮と合意した1994年の核枠組み合意をどう評価していますか。
当時、合意を締結した際に米国内には、北朝鮮政権は近いうちに崩壊するだろうという期待感がありました。結局、崩壊には至りませんでしたが、少なくとも今日まで約10年間核開発を静止させる役割を果たしました。
確かに幾つかの問題を処理せずに放置するなどの課題も残りましたが、枠組み合意には、核開発を停止する目的のほかにも、米国側には北朝鮮が明確で信頼できうる査察の実施を受けいれる方向に転じる可能性も考えていました。
そういった期待感を含め、米朝枠組み合意には大きな意味があったといえるでしょう。
――韓国と米国の北朝鮮に対する政策の違い、特に韓国が支持する「太陽(包容)政策」と米国のアプローチの違いについてどう考えますか。
新政権が発足したからといって韓国が太陽政策を破棄することはないでしょう。しかし、核問題が解決しない限り太陽政策が進展したり北朝鮮に大きな影響を与えることはないと、韓国新政権は理解するでしょう。
同時に米国は韓国内に存在する反米感情を敏感に捉えています。こうした点から両国はお互いに歩み寄っていく、という構図が生まれてきます。確かに韓国は北朝鮮に対して米国ほど強硬路線を好む傾向はありません。そこに温度差はありますが、つまるところ双方とも歩み寄る努力を重ねて北朝鮮が米韓間を分断するような状況を生み出さないようにするはずです。この点において米韓の立場は一貫しています。
――北朝鮮の核問題を解決するため、日本はどのような役割を果たすべきだと考えていますか。また、拉致問題についてどう考えていますか。
一般的にいって、一部の政府関係者を除き、米国は日本ほど拉致問題に固執しているわけではありません。特に現在は核問題があまりにも大きくなってしまったので、米国はもとより日本の立場から考えても、この問題の解決なくして拉致問題の進展はありえないでしょう。
核問題に関しては、日本は重要な役割を担っていると思います。韓国の立場を米国よりもより深く理解していますし、米韓のみならず中国にも対話を促せられる存在です。北朝鮮にとっても日本は貴重な存在で、国交正常化を目指す上で日本が約束している約一兆円の経済援助は大きなインセンティブ(誘因)となるでしょう。
拉致問題については、残念ながら短期的に考えた場合、進展は全く望めません。核問題がそれほど大きく危険で、米国の立場からいえば、北朝鮮が望む国交正常化交渉を始めるにあたり核問題は必ず解決しなければいけない問題だからです。
拉致問題は国交正常化の過程で協議される問題で、米国は核問題で明確な進展がない限り正常化交渉を開始することはないでしょう。こういった意味で、拉致問題が重要課題に挙げられるのは少なくとも1、2年先ではないでしょうか。
――2002年9月に発表された「日朝平壌宣言」は、北京協議で北朝鮮が核保有を宣言したことによって無意味なものになってしまったのでしょうか。
突然の核保有宣言は北朝鮮が常套手段とする無謀な外交政策のほんの一例です。北朝鮮はこれが周辺諸国の譲歩を引き出せると思い込んでいるようですが、これは大きな間違いです。
また、米政権内の強硬派はこうした「瀬戸際外交」を続ける国と交渉をしても速やかに合意に至るわけがないと確信しています。
私は強硬派に属していませんが、彼らが主張する、北朝鮮の瀬戸際外交が危機の深刻さを強めている、という点は正しい見方です。
●米朝核枠組み合意
1992年ごろから北朝鮮に核開発の疑惑がもたれ、国際原子力機関が特別査察を求めたところ、北朝鮮がこれを拒否。94年5月、国連が制裁措置を決定して軍事衝突の危機感が高まった。危機打開のため同年6月、カーター元米大統領が北朝鮮を訪問し金日成主席と会談。北朝鮮が核開発を凍結する代わりに米国が軽水炉建設や重油を提供することなどを約束した米朝核枠組み合意が結ばれた。
Eric Heginbotham
外交問題評議会上級研究員(アジア研究)。朝鮮問題の独立タスクフォース主査。専攻は東アジア国際関係と安全保障問題。中国に6年以上の滞在経験がある。共著に『Bush Plays Trump Card on Iraq, but Little in Hand for North Korea Gamble』。