(2003年1月28日付)
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北朝鮮の瀬戸際外交とブッシュ政権 危機下で警官役を務める米国 体制崩壊を狙う「封じ込め政策」はとらず |
昨年10月以降、核凍結解除のカードをちらつかせる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の“瀬戸際外交”に対し、ブッシュ米大統領は、問題解決の基調を「外交的かつ平和的な方法」とし、北朝鮮への人道的な食糧支援も継続する姿勢を示している。米政府の政策は、軍事的な解決を含めた強硬策から対話と交渉による穏健論へと変わりつつあるのか――。ワシントンDCのシンクタンク、ヘンリー・L・スティムソン・センターのベンジャミン・セルフ上級研究員に聞いた。(野山智章論説委員)
――先日、中国と北朝鮮双方の高官に取材歴があるニューヨーク・タイムズ紙のクリストフ記者が、“北朝鮮の指導者は中国を嫌っており、米国が中国の影響力を当てにするのは間違いだ。ブッシュ政権は従来の方針を改め北朝鮮と直接交渉すべき”との論説を発表した。あなたは米中関係の専門家でもある。この意見をどう思うか。
面白い見方ですが、賛成できません。確かに、南北を問わず朝鮮民族には愛国主義的な“反中国感情”があります。しかし、中国と北朝鮮の間に間隙があって、そこに米国が入り込む余地があると考えるのは間違いです。北朝鮮は、多くを中国に依存しているが故に、ロシアや米国、韓国、日本などにも協力のよるべを求めたいのだ、というのが私の分析です。
――韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)次期大統領は金大中大(キム・デジュン)統領の対北朝鮮「太陽政策(関与政策)」を継承すると言明している。また、米軍装甲車による女子中学生二人の死亡事件を契機に韓国では反米感情が高まっている。今後、米韓の連携は難しくなるか。
基本的には、そんなに心配していません。米韓の外交・安全保障の当事者間には厚い人脈があるからです。例えて言えば、夫婦喧嘩はしていますが、離婚するようなことはない。
在韓米軍への反発と、米国が北朝鮮へ圧力をかけるのを見て「戦争をしたがる米国」という意識が韓国民にあり、反米感情を生んでいるかもしれない。
一方、米国側にも「長年、韓国を守るために努力してきたのに感謝が足りない」という反発があります。双方の感情論は乗り越えられるはずです。
昨年9月の小泉首相の訪朝も“利益”を期待した外交であったし、ロシアのプーチン大統領も落とし所が見えてくれば役割を果たすかもしれないが、危機の最中では皆、ワシントンに下駄を預けたがる。“ならず者”が暴れれば、誰かが怖い警官(Bad Cop)の役回りを引き受けねばならず、何も米国が好戦的なわけではないのです。
忘れてはならないことは、北朝鮮が金正日(キム・ジョンイル)国防委員長の率いる独裁国家であり、核兵器はじめ生物・化学兵器やミサイルなどの大量破壊兵器を所有し、韓国はじめ国際社会に脅威を与えている国だということです。私は必ずしもブッシュ政権の支持者ではありませんが、今回の事態に関しては米国は、北朝鮮の挑発に反応しているだけです。
――戦略国際問題研究所(CSIS)パシフィック・フォーラムのラルフ・コッサ会長は、国連を舞台にした北朝鮮問題の解決を提案している。アナン事務総長の調停や安全保障理事会を軸にした解決を訴えたものだ。一方、ブッシュ政権は当面、中国、ロシア、韓国、日本と連携し、北朝鮮に自制を求めていくとしている。どちらのあり方が望ましいか。
国連を舞台にした問題解決の可能性ですが、まず北朝鮮の望みは、米国との二国間交渉で体制存続を保証する「相互不可侵条約」締結であり、国連での交渉を求めていません。中国は、安全保障理事会で経済制裁を科するなどの行為は、北朝鮮の体制を崩壊に追い込む可能性があるとして反対に回るでしょう。現在でも脱北者などの難民問題に苦しむ中国は、他のバランスのとれた政策を模索するはずです。
中国、ロシアの国益も大量破壊兵器の不拡散という点において米国と共通するので、北朝鮮の核開発には反対するだろうというのがブッシュ政権の認識です。事実、中国とロシアは北朝鮮に直接、「核開発をすべきではない」と言明しています。
ロシアは、旧ソ連時代のつながりから北朝鮮のリーダーたちに親しみを持たれているかもしれませんが状況を左右できるような力はありません。なぜなら現在の北朝鮮は“利益”を生まず“コスト”がかかる懸案であり、ロシアは国内問題で手一杯だからです。
ブッシュ政権から見れば、力を持っているのは中国だが、諸状況を勘案すれば中国が北朝鮮に強い圧力をかけるはずがない。ロシアは力を持っていない。だから日本、韓国と協力して一致した政策を打ち出し、中国、ロシアの協力を取り付けていきたいと考えているはずです。
日本外交に関して言えば、ブッシュ政権の打ち出す「悪の枢軸」北朝鮮のイメージと、日朝国交正常化を前提とした小泉訪朝とではイメージが合わないので、一部に「米国は日朝交渉に反対」との観測が流れています。しかし、日米間でそんなにギャップがあるわけではない。なぜなら、米国に、北朝鮮の体制崩壊を狙った「封じ込め政策」を拙速に実行する意思はないからです。
略歴Benjamin Self スタンフォード大学卒、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で修士号取得。フルブライト奨学金を得て2年間、慶応大学に客員研究員として滞在。1993年からはウッドロー・ウィルソン国際センターのアジア・プログラム研究員を務めた。共著に、『Japan's Changing China Policy(日本の変わる中国政策)』がある。