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【米国の識者に聞く−インタビュー2001】


数々の和平交渉に携わった−−
イボン・ア・バキ駐米エクアドル大使

(2001年3月20日付)



紛争解決の極意は「聞く」こと



 先月二十五日、アメリカSGI(創価学会インタナショナル)の主催による「女性平和会議」が首都・ワシントンDCの世界銀行ビルで開催された。ここでは三十近い分科会・全体会議に三千人の市民が参加。平和・人権の専門家を交えて活発な討議を行った。なかでも好評を博した講演者のイボン・ア・バキ駐米エクアドル大使に、国際紛争の現場体験から培(つちか)った平和思想を聞いた。
(長岡良幸特派員)

 真に理解する忍耐が「双方を勝者」に

 −−中東や南米で紛争解決、和平交渉のプロセスに関わった体験から得られた教訓は何でしょうか。

 「対立」の根源には常に「誤解」や「無理解」があるということです。

 まず同じ話し合いのテーブルに着けない、あるいは形だけ着いても「相手を理解しよう」という心が向かい合っていない。そんな現場の何と多かったことでしょう。

 テーブルを挟(はさ)んで二手に分かれるよりも、円卓で「共通の問題」を真ん中にして知恵を出し合う方がずっと良い。どちらが「私はすべてを手に入れたい」と言い続けても解決には至りません。「勝者」と「敗者」をつくるやり方は実際には「双方が敗者」となってしまう。

 何かを得るためには何かを失わなくてはならない。私はそれこそが「双方が勝者」と訴えています。そのためには「相手を真に理解する」忍耐が必要です。

 例えば、二人の兄弟が一つのオレンジを争っていたとします。父親がやってきてオレンジを取り上げ、半分に切って双方に渡しますが、両方とも満足せずに泣いている。今度は母親がやってきて「兄と弟は何が欲しいのか」聞くことから始めます。

 兄は、ケーキ作りのためにオレンジ一個分の皮が欲しい。弟はコップ一杯のジュースをしぼるためにオレンジの身が全部欲しい、と。そこで母親は父が半分にしてしまったオレンジを合わせて、兄に外側の皮をむいてあげ、中身をしぼって弟にあげることで兄弟ともに満足したという。これは私がよく使う例え話です。

 心に見いだす「平和と自由」が基軸

 −−大変、示唆に富んだ教訓です。例え話の父親の行為は、男性支配の構造にありがちなハードパワーによる「結論の押し付け」を象徴しているようにも思います。母親の行動の特徴は「聞く」ことから始めたことですね。

 それが最も大事なことです。紛争解決の極意です。「対話」と言い「コミュニケーション」と言っても、その成果は「聞く」「理解する」ことができるかどうかにあるのです。人間の口は一つですが、耳は二つ。自分が話すことの二倍、相手の言うことを聞くためにあるのです。

 十四年間も紛争地域にいたことで、多くの体験をしました。レバノンでは、爆弾や銃弾が市街地に絶え間なく降り注ぐ戦争が永遠に続くのではないかと、気が遠くなったものです。いずこの紛争地にあっても、最大の壁は「相手を思いやらない、人間のエゴ」でした。

 町では家も仕事も失ってゴミ捨て場で今日をしのぐ糧(かて)をあさる人々の姿に胸を痛め、自分の目の前で人が殺されるのを体験する一方、和平交渉の舞台や舞台裏にうごめくのは、自分が手に入れた権力を守ることしか頭にない保身の政治家、紛争が解決してしまうと利権を失ってしまう政商たち。

 宗教や民族の名のもとに無意味な殺りくをいつまでやっているのかと、私は私の立場で懸命に叫び、動き回りました。じりじりとした焦燥感、どのみち何も変わらないのかという無力感に絶えず襲われました。

 私が確信をつかんだきっかけは、「平和や自由といっても、自分の外に求めるものではないんだ、それは自分自身の中につくるものだ」という精神的な目覚めにいたったことです。

 自分自身が内なる崇高な力と調和した時に、わが心に見いだす真の「平和」と「自由」。これは誰にも平等に普遍の価値です。

 ゆえに対立点ではなく、共通の出発点になりうる。私は悪に対する怒りを体験し、平和の尊さを痛切に身に染み込ませて、随分と時間をかけてこの結論に達しました。

 非暴力志向の「女性の特質」活用せよ

 −−大使は、アメリカSGI婦人部主催の女性平和会議でのスピーチで「もっと多くの国で女性が登用され、重要な決定にかかわるべきだ」と主張されました。これは「女性の世紀」を提唱する池田SGI会長の思想と軌を一にする考え方です。各国首脳が女性になったら世界はどのように変わるでしょうか。

 まず戦争がなくなりますね。子どもを慈しむ母親たちが人を傷つける兵器を作ったり、使ったりするでしょうか。

 もとより、私は女性だけが指導者になるべきだというのではありません。男女とも平等に必要です。

 しかし、現実の世界はあまりにも男性支配に偏っています。私がかかわった国際紛争の話し合いの場では、いつも私が唯一の女性でした。非武装、非暴力によって解決を探ろうとする女性の特質をもっと発揮できれば、国際紛争にも新たな視野が開けるに違いありません。私は平和の主体者である女性に活力を与えるSGIの運動に心から共感します。

 平和創造の決め手は「教育」以外にありません。しかも、教育の出発点は「まず自分から始めること」。今いる場所で、自分自身を教育し、変革し、周囲に手本を示していく。身近な人を啓発し、育てていく。その行動が世界を変えるのです。



略歴

 Ivonne A-Baki  南米エクアドルの駐レバノン総領事、駐ボストン総領事などを経て、1999年1月から同国初の女性駐米大使。レバノン紛争など数々の国際紛争解決や和平交渉のプロセスに携わる。特にラテンアメリカ世界で最も長引いた紛争の一つであるエクアドル・ペルー国境紛争では交渉の中軸として奮闘、98年10月の平和的決着に大きく貢献した。ハーバード大学ケネディ政治大学院修士課程修了。平和・人権・環境問題に取り組む女性リーダーとして国際舞台で活躍するかたわら、建築や美術の学位をもつ著名な画家でもある。


取材メモ/庶民が主役のSGI運動に共鳴

 三千人もの市民が学者・専門家とともに率直な意見をぶつけあう「女性平和会議」。SGIが強みとする“草の根平和運動”の面目躍如たる光景が、大きな世界銀行ビルのあちこちで見られた。

 バキ大使がSGIの運動に関心を深めるようになったのも、婦人部メンバーとの交流を通じて。「本業は政治家ではなく、画家であり、三人の子をもつ一人の母親であると書いてね」。ハーバード大学で学んだ才媛であるが、どこまでも市井の庶民の目線で生きる姿勢がSGIメンバーと共鳴するのだと感じさせられた。