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【米国の識者に聞く−インタビュー2000】


超党派の『対日政策』提言グループの1人
戦略国際問題研究所上級副所長 カート・キャンベル博士

(2000年11月14日付)



次期政権への影響力大きい“青写真”

沖縄の基地問題解決へ新たな選択肢も




 史上まれにみる接戦となった米国の大統領選挙は、当選者の決定が十七日以降にず れ込む異常な事態となった。新政権の発足に伴い、日米関係はどう変わるのか――。 来年の新政権発足に向け対日政策の指針となる報告書を十月十一日付で発表した超党 派のアジア専門家グループの一人で、現在は首都ワシントンDCの有力なシンクタン クである戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長のカート・キャンベル博士にイ ンタビューした。(聞き手・野山智章記者)


 官僚主体から指導者層主体の対話こそ

 ――今提言は、安全保障面では(1)日米の戦略対話の開始(2)日本のPKO活 動の参加強化(3)集団的自衛権の行使(4)情報協力の推進、という四本柱からな っています。いずれも日本国内では「負担が増える」として、議論が敬遠されがちな テーマです。

 ちょっと言わせていただくと、五点目のポイントもあると思うんです。米国のアジ ア全体における兵力駐留を注意深く観察し、日本における米軍の訓練および駐留に関 しては“良き隣人”となるためのあらゆる努力をする必要性があるという点です。

 同時に、将来的に、例えば朝鮮半島での劇的な変化の可能性も予期できる中で、 (アジア地域の)安定性を保てるような準備を熟考しておくことも必要です。現在、 米国は何カ所かに多くの兵力を配置していますが、われわれは柔軟性・多様性がます ます重要になると考えています。

 ――提言の中身についてコメントがあれば……

 第一の戦略対話についてお話ししましょう。まず言わせていただきたいのは、ここ 数年、日米は十分な調整を、特に朝鮮半島問題について行ってきたことです。しかし ながら、その調整の大部分は官僚レベルにとどまっていました。

 私が思うに、両国が必要としているのは、もっと指導者層を包含した戦略的な討議 です。日米両国の国会議員、ジャーナリスト、学者、こうしたより広い意味での戦略 家および立案者が含まれるべきです。

 われわれの意図するところは、平和と安定の維持のために決定的に重要と確信して いる日米関係を根源的に見直し強化するために、戦略対話を全面的なものに広げるこ とです。日米同盟は、弾道ミサイル防衛や中国の台頭、また朝鮮半島において変化が 起こった場合どうするかといった難問について、丁々発止(ちょうちょうはっし)の 核心をついた対話を行ってこなかったといえるでしょう。これらの討議をわれわれは 不可欠だと考えているのです。

 もはや米国は日本を抑える瓶の蓋ではない

 ――二点目の国連平和維持軍(PKF)本隊業務への参加凍結の解除など日本の役 割強化については?

 われわれが大きな称賛をもって見なければならないことの一つは、日本の国連シス テムに対する関与です。実にあらゆる点で、日本の国連への参加と支援は最近の米国 の支援よりも、はるかに印象的です。

 われわれは日本の役割について感謝する必要があります。国連内における平和維持 活動が、東ティモールやゴラン高原、人道的に困難な状況のザイールやその他の場所 においてより重要になるにつけ、われわれは日本が果たす役割が出てくると感じてい ます。

 恐らく第一義的には過去にやってきたような非軍事的活動でしょうが、それだけで なく段々とより広い役割の可能性が出てくるでしょう。これは適切なことだと思いま す。もちろん、これは日本国民自身が決断を下すべき事柄です。私は日本が国連内で より活発な役割を果たすべき時期は来ていると考えます。

 この趣旨は、日本を不快な方向に押し出すとか、日本国内での政治的支持のない方 向に推し進めるということではなく、日本国民に受け入れの素地があり、また望むべ くはアジア全体にも開かれた議論が開始されることを望んでいるわけです。提言の目 的は、米国はこの分野における日本の行動を抑制するという“瓶(びん)に蓋(ふ た)をするような対応”をすべきでないということなのです。

 アジア太平洋に米軍の前方展開の分散を

 ――提言は三点目に、日本政府が集団的自衛権の行使は憲法上は許されないとの立 場を取っていることは「同盟協力の制約になっている」と指摘、政策転換を求めてい ます。日本に集団的自衛権の行使を求めると言いますが、具体的に特定の地域を念頭 に考えていますか。四点目の情報協力の強化も具体的な事柄を想定していますか。

 (集団的自衛権に関する)討議は特定の地域を念頭に置いていないと言った方がよ いでしょう。これはわれわれが全体的に肝要だと考える、より広い意味での討議で す。

 (四点目の情報協力の強化についても)米国の外交・安全保障政策全般の補助的な ものとして、日米が情報交換を行うことが重要だと考えています。そして私は、単に 両国の情報機関が掌握する分野だけではなく、例えば、中国の台頭、朝鮮半島におけ る不確実性、ロシア極東地域の難問、不安定なインドネシア情勢など、戦略的観点全 体にとって非常に重要であると思います。

 インド・パキスタン問題もそうですが、これらの問題は、日米間の緊密な意見交換 を要する問題です。そして、その交換は情報の重要性を保護するだけでなく、日本側 の適切な受け取り手に到達することを確実にするでしょう。

 ――先ほど、五点目として言われた米軍の駐留についてですが、提言では、沖縄に 駐留する海兵隊の訓練をアジア太平洋全域に分散することで、地元の負担をさらに軽 減する考えも示しています。博士が最近発表した論文でも、日韓両国に重点的に展開 している米軍を分散配置する「前方展開の柔軟化」を提案し反響を呼んでいますが、 今の政府の意見と隔(へだ)たりはどれくらいありますか。

 自分で言うのは難しいですね。ただこれは私見だということだけ言っておきましょ う。ただし、それほど(米政府内で)共有されていない見方ではないと思います。




略歴

Kurt M. Campbell

カリフォルニア大学バークレー校卒業後、エ レヴァン大学(アルメニア)にて音楽を修め、オックスフォード大学にて国際関係論 で博士号。1988〜93年ハーバード大学ケネディスクール助教授、その間、外交 問題評議会研究員、ロックフェラー財団コンサルタントなどを務める。財務省、国家 安全保障会議(NSC)などを経て国防総省入りし、95年から今年4月まで国防次 官補代理。



<提言の概要>

 国防大学の国家戦略研究所(INSS)の特別報告として発表された提言「日米の より成熟したパートナーシップ」の作成には、過去に対日政策を担当した共和党系の アーミテージ元国防次官補やウォルフォビッツ元国務次官補らに加え、クリントン政 権で米軍の「アジア十万人体制」維持、日米安保「再定義」を手がけたナイ元国防次 官補、キャンベル博士ら民主党系の専門家も参加した。ゴア、ブッシュ氏のいずれが 大統領になっても“対日政策の青写真”として、次期政権に大きな影響を与えると見 られている。

 内容は経済・安保の両面に関するもので、経済では一層の市場開放を行いアジア経 済の推進役となるよう促すとともに、安保では、(1)日米間の戦略対話の開始(2)PKO関連活動における日本のより積極的な役割への期待(3)集団的自衛権問 題解決に向けて日本国内での議論開始への期待(4)情報面における日米間の協力の 強化などについて触れている。

 また、沖縄問題については、海兵隊の柔軟な運用を勧め、訓練場所を沖縄以外に移 転する選択肢も考慮するよう論じたことが注目を集めた。

 提言は次のアドレスで公開。http://www.ndu.edu/ndu/SR_JAPAN.HTM


<取材メモ>

 37歳の若さで国防次官補代理(アジア太平洋問題担当)に就任したキャンベル博 士は、船橋洋一氏の著『同盟漂流』でも、日米関係のキーパーソンとして登場する。 国際政治の専門家にして、バイオリンの名手、オックスフォード大学ではボートとラ グビーの全校代表に選ばれ、子供の頃から腕を磨いたテニスでは、プロ選手のマッケ ンローとダブルスで対戦したこともある……。

 任期中の5年間に手がけた事柄は、日米の外交・防衛閣僚会議「2プラス2」をは じめ、沖縄特別行動委員会(SACO)合意、ガイドライン見直しの作業など多岐に わたる。

 別れ際、沖縄・普天間基地の移転問題について感慨を聞いたところ、「思うに、恐 らくわれわれは、日本および、日本政府と沖縄県の間の政治状況の難しさを甘く考え ていたと言えるでしょう。意見の一致を構築することが、これほど困難であると予測 していた人は誰一人いなかった」

 今提言はキャンベル博士にとって、現実と格闘した者のみがもつ“感触”と“心残 り”を練り上げた〈結晶〉なのかもしれない。