
(2000年6月20日付)
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21世紀を「人間らしい慈愛の復権の時代」へ SGIの「非暴力」意識啓発の運動に賛同 |
各国で多発する少年犯罪――。アメリカの小学生は、一日に見るテレビ番組の中 で、平均十回以上も“殺人”シーンを目にするという。子どもたちの行動心理は、人 間がますます他人の痛みに鈍感になっていく大人社会の実相を鋭く反映している。二 十一世紀を「人間らしい慈愛を復権させる時代」とするために、変化の激しいテクノ ロジー時代に生きる私たちの進路は? 心理学で著名なプエルトリコのカルロス・アルビズ大学を訪ね、サルバドール・サ ンティアゴ・ネグロン学長に聞いた。
(プエルトリコ・長岡良幸特派員)
――心理学者の目から見て、プエルトリコあるいはアメリカ全般に、現在の社会が 直面している課題は何でしょうか。
テクノロジーの発達によって、私たちの身の回りに起こる「変化」の速度がますま す早まる一方で、多くの人々が変化のペースについていけずに「取り残されて」いま す。つまり、今や変化そのものが生活の中で日常化し、人間の内面に深い影響を及ぼ しているのに、主人公たるべき人間自身が、そうした「外部からの変化」と適合・調 和することのできる「内面の充実」を図れず、バランスを欠いた状態でさまよってい るようなものです。
混迷する変化の潮流に押し流されないために、人間には「船の錨(いかり)」に当 たる指標が必要です。それは、人間の精神性を耕(たがや)し、芸術性を耕し、人間 らしさを耕すものでなければならない。
私たちの大学では、人間精神を耕す教育に最も有効な手段の一つとして、「ダイバ ーシティ(多様性)」をはぐくむことが大事だと考えています。教育とは、自分に目 を向けて知識や技術を高めるだけでなく、他人に目を向けて自分と異なる人を愛し、 慈愛をもって受け入れ、世界と調和することを学ぶためにあるのですから。
一方、現実はどうでしょうか。世界の人口の六%に過ぎないアメリカが、世界の資 源の七〇%を消費しているといわれます。一方の国には浪費のための物資があふれて いるのに、他方では、一年間に千三百万人もの子どもたちが餓死していくという事 実。
蔓延する暴力。アメリカは囚人の数も世界一です。
若い世代が「精神的な瀕死(ひんし)状態」にあるとの指摘は的を射ていますが、 それはとりもなおさず、大人の社会を映し出す鏡なのです。私が言う「精神を耕す」 とは、他者の苦しみを分かち合い、社会正義に照らして自身の生き方を定めていける 「慈愛の心」を獲得することです。
――そうした教育理念のもと貴大学はプエルトリコで最も多くの心理学者を輩出し てこられました。人の心の痛みを癒すために大切な資質は何でしょうか。
本当に人の心を癒すことのできる人間というのは、相手の内面の深い部分まで降り ていって交流ができ、心の調和や安らぎを与えることのできる人です。
心理医療においては、患者の目をしっかり見て話ができ、患者も安心し信頼できる 医師でなければなりません。そのために、心理学を専攻する者は技術や知識の習得だ けでなく、自分の心を豊かにする努力が必要です。私は学生たちに、技術を学ぶより も、自分自身が調和のとれた状態にあって、相手と精神的に豊かな関係を結べること が最も大切だと教えています。
――その意味では、優れた宗教家、例えば釈迦やキリストなどは、優れた心理学者 であったとも言えそうですね。
その通りです。私は無神論者であり、キリスト教徒ではありませんが、キリストの 行動について感動することがあります。
聖書に書かれている奇蹟(きせき)の一つで、食べ物がなく飢えている四千人もの 人々に対して、キリストが奇蹟を起こしてすべての人々にパンと魚の食事を与えたと いうものです。
後世、宗教が組織化され、既成化するなかで、キリストは奇跡を起こす魔術師のよ うに祭り上げられてしまいますが、実際の話は、キリストが自分のもてるものを隣人 と分け合う愛と勇気の模範を示し、それが何千人もの人々の心を動かして、みながパ ンや魚を分かち合って飢えをしのいだということなのではないか。そうだとすれば、 そのことこそが本当の奇蹟であると私は思うのです。
私は仏教の詳しい歴史は知りませんが、人間としての釈迦の実像も同様だったので はないかと私には思われます。
――それは池田SGI(創価学会インタナショナル)会長が著作の中で示している 釈尊観と一致するものです。人間の心に突き刺さった毒矢のような「差異へのこだわ り」や「人を差別する心」をどう乗り越え、「慈愛の心」に変えていくか。仏法が説 く価値観は、心理学が目指すところと軌を一にしています。仏法は「心を教育する 法」であるといえます。
まさに、我が意を得たりの思いです。「教育」こそが焦点です。
二十世紀の歴史で残念なことは、ドイツや日本という、あれほど教育レベルが高か った国が誤って戦争を起こしてしまったことです。教育の根底に、他者を愛する慈悲 の哲学がなかったのです。しかし、それはこれらの国々だけの問題ではない。過去の 問題でもない。
いまだにアメリカでも、法律家や議員など、高い教育を受けた人々が、人を利用 し、人間に対する差別を行っています。
私が生まれ育ったプエルトリコは、他の国に植民地化され、従属を強いられてきま した。かつてはスペインがインディオを支配し、後にアメリカが来て支配しました。 政治的にも、宗教的にも、常に誰かに従うことを強いられ、私の人生の先には自由も 解放もないように見えました。
そんな時に、教育と出あい、私の人生が決まりました。私の師はカルロス・アルビ ズ博士(大学創立者)です。尊敬できる素晴らしい師に巡り会い、私はスポンジのよ うにあらゆることを吸収して学びました。
真の教育に目覚めれば、どんな国でも、いかなる環境にあっても、私たちは生きて いけます。他人を尊敬し、人の痛みを理解し分かち合うことのできる自分になるため の「慈愛の教育という人生に不可欠の道具」を手に入れた私は、人類という大きな家 族の一員となって、どこに行っても人生の意味を失うことはないのです。
略歴Salvador Santiago―Negron
教育心理学博士。1998年からプエルトリコ学長協会会長。85年からカリブ海 地域先進研究センター会長も務める。75年には故郷のプエルトリコに、市民が抱え る様々な悩みの解決に取り組むための「コミュニティ・ホットライン・プログラム」 「家族相談センター」を創設、自ら初代所長に就任。
後記創価教育の理念に共感、と
カルロス・アルビズ大学は今月、アメリカSGIがプエルトリコで開催した「非暴 力」意識啓発の市民行事に、地元の大学として、いち早く全面的な支持を寄せた。八 日には、その一環として「ガンジー、キングの非暴力思想」に学ぶ講演会を同大学で 開催。「人間の教育の焦点は、知識・技術の習得ではなく、精神性の教育にこそあ る」を信条とするサンティアゴ・ネグロン学長は、SGIが進める人間主義運動、創 価教育の理念の強い賛同者である。
学長の語り口は静かだったが、「われわれは教育で、平和の砦を築くのだ」との情 熱に胸を打たれた。