![]()
(2001年5月8日付)
今から七十年ほど前に書かれた『新聞常識』(下村宏著・一九二九年・日本評論社)という本のなかで新聞教育の重要性が指摘されています。
そこでは「一、新聞の善悪の識別、二、新聞の読み方の研究、三、書く力の養成、四、新聞材料による生きた教育」の四点を挙げ、第一の「新聞の善悪の識別」は「読者としての記事の批判力養成であって、正確に事物を理解し、正否を判断すると同時に、新聞そのものに対する知識の涵養によりて、自ら常識の批判力が強めらるるのみならず、間接には新聞の改善の声とな」ることにあるとその重要性を指摘しています。
新聞の良き読者は新聞を批判的に読むことができる能力を持つことであり、それが新聞(ジャーナリズム)を改善していく力になるというのです。新聞教育の起源は明治期まで遡ることができますが、新聞界と教育現場が協力して組織的にかつ広範囲にわたって進められるようになったのは最近のことです。それがNIEです。
NIEはニュースペーパー・イン・エデュケーションの頭文字で「教育に新聞を」と訳される新聞(一般紙)を教材や学習材として学校教育に役立てる新聞利用教育のことです。一九三〇年代のアメリカでニューヨーク・タイムズ社が始めたとされていますが、アメリカ国内に広まったのは五〇年代半ばのことでした。
その背景となったのが中学生の約四割が教室外ではまったく文字を読んでいないという「活字離れ」に対する危機感でした。現在ではアメリカだけでなくヨーロッパやアジアなど世界三十五カ国でNIEが行われています。日本では一九八五年に日本新聞協会がNIEの必要性を提唱して以来、先進的な取り組みが学校で行われています。
NIEのねらいには、小・中学校では、(1)新聞を読む習慣を身につける、(2)新聞が正確に読める、(3)調べ学習などで新聞を使いこなせる、といった基礎力の獲得、高等学校では、(1)新聞を批判的に読みこなす、(2)新聞記事から自分の意見を持つ、(3)グループで意見を批判したり討論を行う、(4)再度自分の意見を検討し直す、(5)自分の意見を的確に表現する、といった新聞を多角的に活用する能力を獲得することにあります。
二〇〇二年度から「総合的な学習の時間(総合学習)」が小中学校・高校で本格的に導入されますが、身近な新聞を利用した学習であるNIEはメディアにどう接するかを学ぶきっかけとなるものです。新聞を批判的に読む力をつけるということは、メディアや社会を批判的に読み解き、社会の構成員としての自覚を促すメディア・リテラシーの基礎となるものです。
そのためにも新聞界は学校や教師に対する支援態勢、紙面の充実などさらにつとめるべきでしょう。つまり、新聞(ジャーナリズム)を良くするためにこそ批判的な読者を積極的に育てるのであり、ジャーナリズムを支える市民や将来のジャーナリストを育てるためにNIEが不可欠なのだという意識が求められるのではないでしょうか。メディア・リテラシーはジャーナリズムを支える市民を育てるためにあるのです。
(立命館大学産業社会学部助教授)