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連載コラム
「ロシア メディア事情」
ロシア東欧経済研究所次長・岡田邦生

【10】


一大産業に成長した観光業

夏休みを前に大賑わいの旅行広告

(2006年6月13日付)

 モスクワでは5月初旬の連休のころから、若葉が一斉に芽吹き、街は一気に夏めいてくる。そしてこのころ、新聞や雑誌、テレビやラジオ、インターネットなどのあらゆるメディアで、「イタリアは貴方の世界各国への第一歩です」「ウィーンから世界130都市へ」「アラブ首長国連邦――熱い砂漠のお伽の蜃気楼――」等々、夏の休暇シーズンに向けた航空会社や旅行会社の広告が多くなり、モスクワっ子の会話は、夏休みの過ごし方がメーンテーマとなる。

 ソ連時代、ロシアにはピオネールという10歳から15歳までの児童組織があり、子供たちは、夏には海辺などにある専用キャンプ場で、夏休みの大半を過ごした。また、大人たちも、勤務先から配給されるクーポン券などで、主としてソ連国内のリゾートで、安価に長期の休暇を楽しんだ。

 1991年12月にソ連が崩壊した後は、こうした仕組みがなくなり、また崩壊後数年の間、ロシア経済が混乱の極致にあったころは、人々は観光どころではなかった。

 近年のロシア経済の好調さを背景に人々の暮らし向きは格段によくなり、それにつれてロシア人の海外旅行熱は高まるばかりである。過去3年間でロシア人の海外旅行客の数は34・3%の伸びを見せ2005年には678万人に達した。ちなみに、同年の訪日外国人旅行者数は673万人であったが、一年間に日本を訪問した外国人旅行者の総数とロシア人海外旅行者の総数はほぼ同じであったということになる。

 訪問先で最も人気の高い国上位3カ国はトルコ、中国、エジプトである。特にトルコの人気は圧倒的であり、昨年のロシアからの観光客は156万人を数えた。筆者も数年前にロシア人用のツアーに参加して、モスクワからトルコを訪れたことがあるが、アンタルヤ空港が、モスクワからのチャーター便で溢れていたことが印象的であった。

 西欧諸国の中ではドイツ、スペイン、イタリアの人気が高く、それぞれ6位、7位、8位につけている。なかでもイタリアは、あらゆるメディアを通じて大規模な広告を行い、さらに、利便性と経済性の高いチャーター便を数多く確保するなど、積極的なロシア人観光客の誘致政策を実施した結果、昨年、ロシアからの訪問客数は前年比32%の伸びを示し、一挙に20万人を超えた。

 ちなみに、日本の位置は28位であるが、昨年は2万5000人余のロシア人観光客がわが国を訪問した。日本へのロシア人観光客数も近年大幅な増加傾向にあるが、査証の取得が難しいこと、平均的なモスクワからのツアー料金が45万円程度と比較的高額であることなどが、大幅に人数が増えない原因であるという。

 国連世界観光機構によると、海外旅行中に使う金の多寡を示す統計で、現在、ロシア人は世界第9位にランクされているが、今後、急速にその地位を上げていくであろうと予測されている。トルコやイタリアなど、上記の国々が、各種メディアへの広告などに多額の予算を使って、ロシア人観光客招致に血眼なこともうなずけよう。

 一方、ピオネールの伝統が残っているためか、子供たちを英国などヨーロッパ諸国のサマースクールに送り込むというツアーも人気を博している。そこでは、英語などの語学研修に加え、テニスやゴルフ、乗馬やダイビングなどのスポーツ研修もでき、さらに近郊への小旅行なども可能であるという。ある会社の案内によると、英国でのコースの1週間あたりの滞在費は日本円にして12〜23万円、標準コースは約1カ月であるので、決して安くはないが、年々参加者は増えているという。

 世界旅行・観光業評議会によると、ロシアにおける旅行・観光業は、広義において本年948億ドルの総需要を生み出し、それによってGDP(国内総生産)の7・8%、また、全体の6・6%を占める452万人の雇用を創出すると見込まれている。

 旅行・観光業の裾野は広く、同分野の好不調は広告収入の増減にも直結するため、ロシアの各種メディアも同分野の動向に注目している。

 (ロシア東欧貿易会ロシア東欧経済研究所次長)

略歴

 おかだ・くにお 1986年、創価大学大学院文学研究科社会学専攻博士前期課程修了。在学中に南フロリダ大学、モスクワ大学留学。86年、(社)ソ連東欧貿易会調査部研究員、91〜96年、同主任・調査役、96〜2001年、同モスクワ事務所長、01年より現職。著書に『ロシア・CIS経済ハンドブック』(全日出版)など。