![]()
(2005年12月13日付)
11回目となるプーチン大統領と小泉首相との会談は、少人数会合1時間半、全体会合1時間と計2時間半に及んだ。ロシアのメディアはどのように今回の大統領訪日を伝えたのであろうか。主要紙を見る限り、非常に大きく紙面を割き、かなり詳細に報道されていた。
しかし、その報道の基調は「石油のことは今日、島のことは明日」(コメルサント)、「クリール(千島)諸島は主要議題にあらず」(イズベスチヤ)、「東京での交換 プーチンと小泉は平和条約を東シベリア産石油の犠牲にした」(独立新聞)等の見出しの通り、日ロ関係において「領土問題」は過去のものとなり、経済協力こそが重要な課題となったということを強調するものであった。
興味深かったのは、イズベスチヤと独立新聞の2紙が首脳会談を伝える記事に並べて日本に関する世論調査の結果を大きく掲載していたことである。イズベスチヤでは「世論調査基金」の調査を引用し、67%のロシア人が「懸案のクリール諸島はロシアに帰属し日本は放棄すべき」と考えていると報じた。同基金による1999年の調査では、同様の答えは47%であったので、6年間でこうしたロシア愛国主義的な考えを持つ人の割合は20%も増えたことになる。
一方、「クリール諸島のロ日共同統治」を支持した割合は同時期に比べ半減し10%になったという。そして、こうした回答の背景には、回答者の57%が「国際社会においてロシアは日本以上に影響力を持っている」と考えていることもあるとしている。独立新聞では「全ロシア世論研究センター」による調査結果を報じている。全般的に先の調査とほぼ同様の傾向が見られたが、さらに高率の73%のロシア人が「領土問題に関する議論に終止符を打ちロシアの領土と確定すべき」と答えている。
独立新聞では、世論調査によるロシア人の日本に対する考えをより詳細に報じている。それによると、一般のロシア人にとって日本とは、オーディオ、ビデオ、家電、車に代表される高品質製品を生産する国であり、54%の人が現代の日本を経済的成功の手本と見ている。さらに、17%(若者の中では24%)の人が訪れたい国として日本をあげ、14%(大都市圏では23%)の人が、国家利益を守るという観点で日本を見本となる国としている。
つまり、多くのロシア人は日本の経済発展を尊敬の念を持って評価し、一部、日本に今後のロシアのあるべき姿を見ているということだ。したがって、51%(大都市圏では69%)の人が日本を貿易経済面でのロシアのパートナーと見ており、全体として日本を肯定的(友人、パートナー)に見る人は61%を数え、否定的(ライバル、敵)に見る18%を大幅に上回っているという。領土問題に対する強硬な意見とは裏腹に日本に対する国民の感情は極めて友好的である。
イズベスチヤは、プーチン大統領も出席した日ロ経済協力フォーラムの日本側参加者の「我々にとって島の問題とビジネスの問題は全く別物なんです。懸案の領土問題は政治の世界で解決してもらうことにして、我々はロシアと商売を進めますよ」との声を紹介していたが、ロシア側に都合の良い意見というより、日本のビジネスマンの本音といえよう。
経済関係の緊密化だけが進むことは、領土問題の棚上げに繋がるとの懸念もあるが、「政経不可分」では問題が解決しないことは、歴史が示す通りである。
同紙はまた、プーチン大統領と柔道家の山下泰裕氏との懇談の様子を報じ、山下氏から「自他共栄」と書かれた掛け軸が贈られたことを伝えたが、柔道の創始者である嘉納治五郎の意図がロシア側に伝わったと考えるのはナイーブに過ぎるであろうか。 (ロシア東欧貿易会ロシア東欧経済研究所次長)
略歴
おかだ・くにお 1986年、創価大学大学院文学研究科社会学専攻博士前期課程修了。在学中に南フロリダ大学、モスクワ大学留学。86年、(社)ソ連東欧貿易会調査部研究員、91〜96年、同主任・調査役、96〜2001年、同モスクワ事務所長、01年より現職。著書に『ロシア・CIS経済ハンドブック』(全日出版)など。