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(2000年11月7日付)
新聞の名前は『デイリー・ニュース・エキスプレス』。
マンハッタンを中心におよそ百万部の販売部数を誇るタブロイド判大衆紙、『デイ リー・ニュース』紙による日刊紙である。
月曜日から金曜日にかけての平日、マンハッタンとブルックリン地区で帰宅途中の 通勤者をターゲットに現在九万部が発行される。その日の地域および世界のニュース が手軽に読めると街の反応は上々だ。
この無料紙をきっかけに、本紙のほうにも若い通勤者層を読者として獲得しようと いう同紙の思惑は順調なスタートをきったといえる。
この『デイリー・ニュース』紙の新戦略を黙って見守るわけにいかないのは、同じ マンハッタンで購読者確保を争う『ニューヨーク・ポスト』紙。やはり帰宅途中の通 勤者を主な読者層として持つ同紙にとって、エキスプレス紙は深刻なライバルだ。
そこでポスト紙はエキスプレス紙配布開始に先駆け、価格を従来の一部五十セント から半額の二十五セントに一気に減額、街頭の新聞売りを大幅に増員して大々的に売 り出しをかけた。一面右上に大きく躍る、赤地に白抜きの「オンリー二十五セント」 の文字が人目を引く。
九五年に『ニュースデイ』紙がマンハッタンから撤退して以来、マンハッタン・ロ ーカルのタブロイド判大衆紙競争は事実上、このニュース紙、ポスト紙二紙間の一騎 打ちである。インターネットの普及などの影響で購読者数に陰りが見られるのはどこ の新聞も同じで、二紙とも部数に伸び悩み、この数年、所有会社を転々としている。
赤字のリスクを背負いながらも所有会社が投資を惜しまないのは、世界有数の大都 市であるニューヨークで主要紙を発行するというメディアのイメージと威信がかかっ ているからにほかならない。
タブロイド紙というとスーパー・マーケットで売られている下世話なゴシップ紙と いうイメージが強いが、ニュース紙やポスト紙は『ニューヨーク・タイムズ』紙のよ うな高級紙の趣(おもむ)きこそないものの、それぞれの持ち味を生かした個性的な ニュース報道で市民の支持を勝ち得ている。ラッシュ時の電車やバス社内でも読みや すいタブロイド判サイズというのも一般に人気がある一因だ。
全米全体の状況から見ると、この二紙のタブロイド判新聞の競争はまだ緩(ゆる) やかなほうだ。近年、競争が激化しているコロラド州デンバーなどは、全米で販売さ れるタブロイド判大衆紙四十一紙のうち、実に十紙が集中して熾烈(しれつ)な販売 競争を展開している。
激しい販売競争は、広告でページ数の膨れ上がった分厚い新聞と、一部一セントと いうただ同然の購読料を約束する赤字経営の新聞を生み出した。資本主義下でこのよ うな状況が長く続くとは考えがたい。
遅かれ早かれ大手の新聞が赤字経営の新聞を合併し、将来的には他都市で見られる ようなごく少数の新聞による寡占市場の到来が予測される。
その点ニューヨークは、ロサンゼルスと並んで一紙による寡占化にさらされていな い、全米の数少ない都市のひとつで、新聞間競争は比較的健全だといえる。
そのニューヨークの大衆紙競争、部数では平日売りで七十三万部を誇るニュース紙 が四十三万六千部のポスト紙を大きくリードしているが、ポスト紙はメディア王、ル パート・マードック氏率いるニュース・コーポレーション社の傘下にあり、財政面で 強い後ろ盾を持つ。
またこの二紙の他に、マンハッタンから一度撤退し、現在ではロングアイランドを 中心に発刊している『ニュースディ』紙がクィーンズ地区を中心に記者の拡充を図っ ており、業界内では同紙のマンハッタン回帰への伏線ではないかと噂されている。マ ンハッタンの新聞販売競争、熱い戦いはしばらく続きそうだ。(在米ジャーナリス ト)