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(2000年9月5日付)
八月初旬、民主党の大統領候補であるアル・ゴア副大統領がジョゼフ・リーバーマ ン上院議員を副大統領候補として指名することが明らかになると、メディアにはリー バーマン氏の清廉(せいれん)な人柄に対する賞賛と同時に、その人選に対する戸惑 いも見え隠れした。
多様性を誇るアメリカ社会でもユダヤ系の副大統領候補は初、そしてなによりも氏 が正統派ユダヤ教徒であるという事実はアメリカ社会にとって少なからぬインパクト を与えた。
アメリカ人が正統派ユダヤ教徒ときいてまず思い浮かべるのはおそらく黒い帽子に 黒い服、ヒゲをはやした姿と、厳しい戒律であろう。正統派ユダヤ教徒といえば、厳 しい安息日の遵守(じゅんしゅ)で知られる。金曜日の夕方から土曜日の夕方にかけ ては休日として一切の労働が禁止、さらには車の運転や火の使用、電気のスイッチの 切り替えまでも禁じられている。
超正統派の、時に排他的な姿もあいまって、一般市民にはエキセントリック(風変 わり)というイメージを与えることも多い。しかし、熱心な信徒であるリーバーマン 氏は極めて温厚な人柄で知られ、外見もごく普通のアメリカ人となんら変わりはな い。
リーバーマン氏指名にまつわる報道で興味深かったのは、アメリカのメディアが日 に日にユダヤ教、および正統派ユダヤ教について学習していくさまだ。指名が確実に なった直後の報道には、安息日に戦争が勃発(ぼっぱつ)したらどうなるのかといっ た信仰と公的任務の遂行の両立に対する疑問に始まり、イスラエルを崇拝する者が本 当にアメリカ合衆国に対して忠実でありうるのかなど、様々な憶測が氾濫(はんら ん)した。
しかしリーバーマン氏が政治家として行ってきた様々な実績が報道されるにつれ て、そうしたステレオタイプが覆されつつある。リーバーマン氏が属するモダン・オ ーソドックス(正統)派と呼ばれる正統派ユダヤ教は、正統派の信仰を現代生活に合 わせて柔軟に解釈したもので、公的利益になる行いは規律を守ることよりも大切であ ると教える。
よってリーバーマン氏は安息日であっても職務があれば歩いて国会に向かうなどし て職務を果たしてきた。それが私的利益のための選挙キャンペーンであれば安息日に は一切行わない。
▼同教徒からの非難・中傷が噴出ユダヤ教徒はイスラエルの利益のために行動するという偏見も、リーバーマン氏に は当てはまらない。同氏の今までの活動には、イスラエル人スパイ解放反対の表明 や、イスラエルによる中国への軍事兵器売却計画への反対、アラブ系アメリカ人差別 に対する抗議運動なども含まれる。いずれも党利にも私益にも左右されない、信念に 基づいた行動である。
普通は政治家といえば日がたつにつれ、何かしらの「あら」が報道されるようにな るのが常だが、リーバーマン氏の場合は公益と自身の信じる倫理のために行ってきた 議員としての活動がより鮮明に浮き彫りにされてきた。クリントン大統領のモニカ・ ルインスキーさんとの関係が明らかになった時、同じ民主党の議員として初めて大統 領の行動を非難したのも他ならぬリーバーマン氏だった。
ふだんからユダヤ系市民と仲の悪いアフリカ系アメリカ人からの中傷は別として、 メディアに登場した数少ないリーバーマン氏非難のコラムのほとんどが、同じ正統派 ユダヤ教徒によって書かれている点も興味深い。
超正統派に近い信徒たちは、氏の妊娠中絶に関する女性の権利保護や同性愛者保護 の姿勢はユダヤ教の原理に反すると、モダン・オーソドックス派の中道的な姿勢を非 難しているのだ。普段は一般市民の目にあまり触れる機会がない、正統派ユダヤ教内 部の確執が明らかになった形だ。
リーバーマン氏の指名をきっかけに、アメリカ国民は、全人口の三%に満たないユ ダヤ人の中でも更にその一〇%に満たない少数派である正統派ユダヤ教徒について学 びつつある。ゴア副大統領、リーバーマン上院議員の次なる挑戦は今回の論議を、ユ ダヤ教の枠を越えた多様な宗教、民族に広げていくことといえよう。(在米ジャーナ リスト)