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(2002年10月8日付)
小泉首相は去る9月17日、正式に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪問し、平壌で金正日総書記と会談、日朝平壌宣言に署名した。北朝鮮は口頭で拉致の事実を認め、金総書記は謝罪した。従来、拉致事実さえ否認し虚構だとしていた態度からは大きな転換と評価できる。
しかし、拉致された11人の被害者のうち地村保志、浜本富貴恵、蓮池薫、奥土祐木子さんの4人は生存しているが、田口八重子、原敕晁、有本恵子、横田めぐみ、市川修一、増元るみ子さんの6人はすでに死亡し、久米裕さんは不明。それ以外に、被拉致者として曽我ひとみさんが生存し、松木薫、石岡亨さんが死亡していることが政府調査団への北朝鮮側の説明によって判明した。
日本政府が拉致と確認していなかった被拉致者も、なおかなりの数がいるのではないかと予想されている。被害者の家族たちはこの説明に納得せず、政府は拉致事件の全容解明に向け、北朝鮮側の協力を引き出すには、10月から始まる正常化交渉によろうと考えているようだ。
アメリカのブッシュ大統領は、イラン、イラクと並んで名指しで北朝鮮を「悪の枢軸」ときめつけた。日本に対しても、ミサイル発射、不審船問題など、北朝鮮は不穏な行動を重ね、「よど号事件」の犯人たちを匿っていることなども一般の日本人にとっては決して好ましいこととは思われない。
この中でも、拉致問題は大きな問題であった。世界人権宣言は、第3条に「すべての人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」と定め、日本国憲法も、第13条に「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利は、国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定している。
さらに、世界人権宣言採択45周年を記念しウィーンで開催された世界人権会議が採択したウィーン宣言にも「国民の人権を守り伸張するのは諸政府の第一義的な義務である」としている。
国の安全保障とか有事立法と言われているが、結局は国民の人権を守るためなのではないのだろうか。拉致された人の救済も出来ない様では、国民の安否を托された政府の責任者とは到底言えない。
拉致問題の発表に関連して北朝鮮系学校の生徒などに対するいやがらせが相次いだと伝えられる。心無い人々の愚かな行動は、厳しく戒められなければならない。また、北朝鮮の人々の食糧不足などの困窮事態に対する人道的対処も必要である。
しかし、拉致問題やそれへの陳謝を国民にも知らせず、日朝平壌宣言においても言及されなかったことは、どのように理解すべきだろうか。口頭だけの陳謝が、日本からのコメをはじめとする経済援助を引き出すための顔に過ぎなかったとすれば、あまりにも情けない。
10月3日にはブッシュ米政権の特使としてケリー国務次官補が訪朝したが、米朝関係の早期的改善にはまだ程遠い。北朝鮮が一日も早く、人権を守る民主的な国家になるよう、そして、朝鮮半島に平和的統一の日が訪れるように願ってやまない。
(人権教育啓発推進センター理事長、明治大学名誉教授)