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(2002年9月10日付)
「災害は忘れた頃にやってくる」と言われる。
東海地震も予想より規模が大きく、津波も大型になりそうだと伝えられる。阪神・淡路大地震の時には全国から救援の手が差し伸べられたが、関東と中部に同時に激震が襲い、交通が途絶したような場合、また、あっては困ることだが、日本が国際武力紛争に巻き込まれて、複数の主要都市が攻撃を受け非常事態になったような場合には、一個人の力ではどうしようもない。
折しも、国会で、有事立法との関係で国際人道法条約(ジュネーブ条約追加議定書)の批准が問題になっている。この問題は従来も赤十字関係者や有識者の間では検討されていたが、戦争を前提とするということで避けられてきた経緯がある。
しかし、「消防」は火災を前提とするから、「病院」は病気を前提とするからいけないという論理は成り立つだろうか。わが国は、早くからジュネーブ条約(赤十字条約)に加盟し、第2次世界大戦後に作られた1949年のジュネーブ4条約(戦争犠牲者保護4条約)には、サンフランシスコ条約締約時の約束に基づいてすでに加入している。基本条約に入りながら、それを補足し詳細にした1977年の追加議定書に入ってはいけないという論理は成り立たない。
議定書の中に日本として受け入れ難い条項があれば、その点を留保して加入することは十分可能だ。この条約・議定書が「国際人道法条約」と呼ばれるのは、それが人道的精神に基づき、武力紛争時における人権の保護を目指しているからにほかならない。
このジュネーブ条約追加議定書の中で注目されるのは「市民災害救助隊」の制度である。それは、武力紛争や大規模な災害時に市民を災害から守ることを目的としている。
「赤十字」は、武力紛争時に軍隊構成員の傷病者救護を主目的としており、文民の傷病者の救護は副次的である。まして消火や倒壊家屋の除去、給養、消毒、交通路の開設などは任務としていない。現在、大規模災害の場合に自衛隊が出動しているが、それも主任務ではない。まして外国との武力紛争が生じた場合には、自衛隊の任務は交戦行動で、災害救助などにかまっておれないはずである。文民は完全に見捨てられてしまう。
「市民災害救助隊」は、そのようなことを避け武力紛争時にも災害時にも、市民の救助を主目的として編成、訓練、行動する部隊である。場合により軍隊(わが国では自衛隊)が市民災害救助隊に編入されることはありうるが、その場合には交戦活動から除外され、市民災害救助隊の指揮官の命令によって行動するものである。
市民災害救助に参加する者は、赤十字関係者と同様に保護される。わかりやすく言えば、現在の消防・救急活動を市民救護のために拡大整備したものと言えよう。従来のいきさつにこだわらず、この議定書の内容を良く検討し早急に批准することが望まれる。
(人権教育啓発推進センター理事長、明治大学名誉教授)