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連載「ニュースの眼」
ニュースの眼

BBC前会長が自伝

英国の「報道」と「政治」克明に

(2006年9月26日付)

 先に1年以内の退陣を表明した英国のブレア首相。彼が国民の支持を失った一因に、イラクの大量破壊兵器をめぐる「情報操作」疑惑がある。

 イラクは大統領が命令を下してから「45分以内に」大量破壊兵器を使うことができる――と政府は説明した。一方、この文書は「官邸が意図的に脚色したものだ」と報じたBBC(英国放送協会)は、ブレア政権と激しく対立し、2004年1月、会長のグレッグ・ダイク氏が辞任に追い込まれた。

 『真相 イラク報道とBBC』(平野次郎訳、NHK出版)は、一連の事件の内幕をダイク氏自身が克明に描き出すとともに、波乱に満ちた半生をユーモラスな筆致でつづった自伝である。

 「情報操作」疑惑について著者は、記者の取材・報道の経過と内容を詳細に検証し、その正当性を主張している。同時に、ブレア政権の誰から、どのような圧力がかかり、BBCの独立性を守るためにどう闘ったかというインサイド・ストーリーは、すべて実名で描かれており、真に迫る。

 ロンドン近郊の庶民の町に生まれた彼が、タブロイド紙の記者から、いかにして放送界の頂点に上り詰めたかというサクセス・ストーリーも興味深い。また、驚くほどの官僚主義がはびこり、著者の言葉を借りれば「つまるところ、金を使うだけの組織だった」BBCの改革に大ナタを振るい、劇的に蘇生させたくだりは、生きたビジネス教本のようだ。

 本書の解説では、BBCの機構改革と、デジタル化時代に公共放送が担うべき役割などについても論じられている。これらのテーマは、スタイルこそ違うが、現在のNHKにとっても共通の課題だ。監修、訳出をNHK出身者が、解説をNHK放送文化研究所の研究員が担当しているのも、故なきことではないだろう。

 報道と政治、公共放送と民放の関係から、組織論、指導者論に至るまで、本書には数々の教訓がちりばめられている。報道関係者はもちろん、市民がメディアの在り方を考える上でも、大いに参考となる一書である。(落合克志記者)