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(2006年5月23日付)
2001年9月11日。世界を揺るがした同時多発テロの現場で、人命救助のため、燃えさかる世界貿易センタービルに飛び込んでいった“英雄たち”がいた。
作家・ジャーナリストで中部大学教授(人文学)の栗木千惠子氏が上梓した『ニューヨークの英雄/9・11の消防士たち』(近代消防社刊)は、あの日、犠牲となった消防士たちの遺族や同僚、友人へのインタビューを通し、それぞれの「生の軌跡」を浮き彫りにしたルポルタージュだ。
兄弟同然の仲間を失い、遺体を捜し続ける同僚。父を奪われ、または息子に先立たれた親子2代の消防士。わが子をのみ込む崩落現場を目の当たりにし、ビルの安全基準見直しの運動を始めた母親。栗木氏は「取材は最初から最後まで凄まじいの一言。聞いている私の方が心身ともにボロボロになり、書き上げた原稿も2年間は手をつけられなかった」と振り返る。
旅客機が衝突し、崩れ落ちるツインタワーの映像も、テロの犠牲の一断面にすぎない。死傷者だけでなく、その周りにも一瞬にして人生を狂わされた莫大な数の“犠牲者”がいることを、著者は2年余に及ぶ取材と、映像にも勝る「活字の力」をもって描き出している。
中でも、奇跡の生還を果たした消防士の話は印象深い。崩落するツインタワー内部の惨状を伝えるとともに、その極限状況の中でも「一人の生命を救う」という使命に生き抜く消防士の気高さと勇気が胸を打つ。
一方で、343人もの殉職を防ぐことはできなかったのかという思いも募る。安全確保の面で、学ぶべき教訓は多い。
「消防士や遺族から取材を通して感じたメッセージは何か?」と尋ねると、栗木氏から「究極のところ、『よく生きよ』ということだと思う。世界平和という抽象的な概念も、一人ひとりがよく生きていけば、おのずと実現するのではないか」との答えが返ってきた。「平和を実現しなければ犠牲になった人々は浮かばれない。9・11は、まだ終わっていない」とも。
テロから5年目の今年、本書が世に出ることの意義は深い。「9・11とは何だったのか」を顧みるとき、貴重な糧となる一書である。(落合克志記者)