【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2005 by The Seikyo Shimbun.



連載「ニュースの眼」
ニュースの眼

中東の衛星TV局アルジャジーラ

9・11以降の報道界に光る存在感

(2005年11月8日付)

 初の米本土攻撃となった9・11テロは、米社会に深い悲しみと恐怖心を刻み、対テロ戦争が始まると、それらは“過剰な愛国心”となって、多数の米国民の心をとらえて離さなかった。

 この時期、報道する側には、極端な社会的風潮に対して、冷静沈着な対応が求められたはず。ところが、テロ戦争報道の実態は、アルカイダを含むイスラム原理主義憎しの雰囲気に流され、ジャーナリズムの本義を見失う結果に終わってしまった。

 ベトナム戦争時、ペンタゴン・ペーパーズ(国家機密文書)のスクープで話題になったNYタイムズとワシントン・ポストは、被害者感情への配慮から、機能不全状態に陥る。ABC、CBS、NBCの3大ネットワークも、新興勢力・FOXテレビとの視聴率競争の渦中で、従来の輝きを失った感は否めない。

 そうした中、中東の衛星テレビ局・アルジャジーラは、不確かな情報が飛び交う戦争報道にあって、恐らく唯一、事実伝達の責務を果たしたといってよかろう。それは、従軍取材とは一線を画し、アフガンやイラクの戦場現場から報道し得たからにほかならない。

 近ごろ、アルジャジーラに関する書籍2冊が出版された。ともに、政治権力とのせめぎ合い、戦争報道の歴史を紹介しつつ、国際政治の深層に迫っていく点で興味深い。

 中東専門のフリージャーナリスト、ヒュー・マイルズ氏の著した『アルジャジーラ 報道の戦争』(河野純治訳・光文社、写真右)は、豊富な取材をもとに、その報道のあり方を分析・検証。ホワイトハウスの“報道介入”に屈しなかった事実や、イラク戦争中に米攻撃機のミサイルによって、若手特派員が殉職した実例を挙げつつ、権力と戦い続ける誇り高い報道精神を称えている。

 一方、パリ第10大学の女性学者、オルファ・ラムルム氏の近著『アルジャジーラとはどういうテレビ局か』(藤野邦夫訳・平凡社、写真左)によれば、王室すらタブー視しないこの放送局の存在は「カタールの民主化の証明」と同時に、中東の大国・サウジアラビアとの「外交の貴重な道具」でもあると、政治専門家らしい指摘を加えた。

 ただし、アルジャジーラにも課題は多い。カタール首長が大口出資者であるゆえ、報道が「自国に甘い」との批判もある。それでも、アルジャジーラの報道界への功績が大きいことに変わりはない。

 開局から約10年――。来年には、新たに「英語放送」が始まるという。アラブの政治・文化・社会に関する情報が一段と増すことを考えれば、西欧やアジアにも、また新たな一石を投じるに違いない。(光沢昭義記者)