【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2004 by The Seikyo Shimbun.



連載「ニュースの眼」
ニュースの眼

長野県警の「遺族犯人扱い」問題

河野氏「生かされた松本サリン事件の教訓」

(2004年10月26日付)

 今年4月、長野県で起きた殺人事件の遺族の一人が、ポリグラフ(うそ発見器)にかけられたり、長時間の事情聴取をされるなどして「警察に犯人扱いされた」と抗議していた問題で、同県公安委員会は今月8日、県警に対して「遺族に会って直接陳謝すべきだ」と指摘。さらに、ポリグラフ使用は任意であるとの説明を徹底することなど、捜査方法の改善に向けた4項目を提言した。これを受けて、捜査に当たった飯田署の署長が遺族宅を訪れて陳謝、事態はようやく収束した。

 この問題について、同県公安委員を務め、1994年の松本サリン事件で犯人扱いされた経験を持つ河野義行氏に話を聞いた。

 委員会で警察からの報告を聞く一方、私人として遺族と面会するなど、提言作成をリードした河野氏。「遺族の方が納得して、心穏やかになれるようにすることが最も大切。どうしたらそうできるかを考えて、直接陳謝することを提言した」と語る。遺族の方も「気持ちが楽になった」と深く感謝しているという。

 今回の問題の原因について、河野氏は警察と市民との「ギャップ」を強調する。

 警察にとって取り調べは「日常」のことだが、市民にとっては「非日常」の出来事であり、多大なストレスがかかる。こうした中で、警察側は「聞きたいことを聞いた」つもりが、相手にとっては「とんでもないことを聞かれた」「犯人扱いされた」という話になってしまう。

 河野氏は「警察側が市民に近づいて、このギャップを埋めない限り、同じことが繰り返される」と主張。提言の中で、双方の意識の溝を埋めるための方策を定めるよう求めた。

 また、今回、遺族に対して15時間に及ぶ聴取が2回行われたという。長時間におよぶ事情聴取は、えん罪を生む温床と指摘されるが、法律の具体的な規制がないため、現状では違法と言えないというのが実態だ。

 そこで提言には「任意の事情聴取時間の基準設定」が盛り込まれた。河野氏は「捜査協力ということで聴取に応じてもらう以上、それなりの配慮、説明が必要だ。法を改正して規定を定めればよいのだが、時間がかかる。それならば、今後同じことを繰り返さないために、長野県警だけでも何らかの歯止めを設けるべきではないか」という。

 さらに、河野氏によれば、「遺族がポリグラフにかけられたことを複数のメディアが知っていた」という。警察が流したリーク情報によるものだが、これは守秘義務違反に当たるとして、法の順守の指導強化も提言している。

 一方、このリーク情報の報道を、今回はマスコミが踏みとどまった。河野氏は「もしスクープとして報道していたらメディア・スクラム(集団的過熱取材)が起きていただろう。この点では、松本サリン事件の教訓が生きたといえる」と強調した。

 いずれにせよ、今回の長野県公安委員会の提言は、全国の警察にとって大きな改革の一歩となる可能性を秘めている。県警側の回答に注目するとともに、「苦しんでいる市民の声と、問題解決への提案を広く増幅していくこともメディアの重要な役割」(河野氏)との言葉をしっかり受け止め、体現していきたい。

 (落合克志記者)