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【3】(2006年11月14日付)
気鋭の奏者・黄蒙拉に喝采 |
去る10月8日の朝、私は仙台空港に降り立ちました。どこまでも晴れ渡る青い空と清々しい空気。早起きした寝不足の憂鬱もどこかへ吹き払われた気分でした。
仙台を訪れたのは、開催中の「仙台クラシックフェスティバル」に出演する、上海出身の若きヴァイオリニスト、ホァン・モンラ(黄蒙拉)を取材するためでした。そして、もう一つ私を強く惹きつけたのは、この街が中国近代の文豪・魯迅ゆかりの地でもあったことでした。
ホァン・モンラは、2001年に開かれた第1回仙台国際音楽コンクールの優勝者であり、翌02年にはイタリアの名門パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールにおいて、アジア人として史上3人目となる優勝の快挙を成し遂げました。
今もっとも注目される若手アーティストのひとりで、中国だけでなく、日本、イタリア、フランス、カナダなどで演奏し、確実にキャリアも積んでいます。
彼の演奏は、冴えわたる仙台の秋空のように気持ちよいものでした。聴衆も地元・仙台開催の記念すべき第1回コンクール優勝を皮切りに、世界で活躍するアーティストを温かく迎え、惜しみない拍手をおくっていました。
公演後、楽屋で面談した彼は、何ともいえない爽やかな青年。笑顔には、あどけなさが漂いながらも、黒い瞳に若き芸術家の情熱が感じられました。医師の一家に生まれた彼が、ヴァイオリンを始めた理由は意外でした。落ち着きのなかった幼いころ、何か習い事でもさせたいという両親の思いがきっかけとか。
また8歳の時、名門の上海音楽院に入学したのは、戸籍を上海郊外から市内へと変更するためだったそうです。この冗談のような本当の話も、彼が逸材であることを物語るエピソードに思えてしまいます。
近年、上海では、とても立派な上海大劇院、上海音楽庁、東方芸術中心などの施設が造られ、クラシック音楽のコンサートも頻繁に行われるようになりました。しかし、市民のクラシック音楽に対する反応は二極化しているそうです。チケット代が高過ぎるのも一因かもしれませんが、一部の文化人や富裕層のおしゃれな社交場にすぎず、一般市民は無関心なのが現実です。
また、世界的に著名な音楽家の公演チケットがPR不足のため3割しか売れず、逆に、芸術的評価の低い公演のチケットに数千元の高値がついてしまうなど、広告宣伝などの普及活動もこれから充実していかなければならない課題であるとのことでした。
ホァン・モンラにとって仙台は特別な思いのある場所。5年前に優勝してからも、度々訪ね、演奏会を開いたり、ホストファミリーと一緒に名勝を見学したりと、日本にある“もう一つの故郷”という感じだそうです。
最近、活動の拠点をロンドンに移した彼に将来の夢を聞いてみました――。
「音楽は一瞬の芸術。演奏家として舞台に立つ時は失敗が許されず緊張していますが、ふだんは、もっとリラックスしたなかで、純粋に音楽をエンジョイしたい。自分自身も聴衆とともに享受できる悦びであるべきと考えています」
上海から仙台へ、そして世界へと羽ばたくホァン・モンラ。きっと限りなく成長してゆき、もっと魅力を備えた芸術家になっていくことでしょう。
その日を楽しみに思いながら、私は仙台をあとにしました。魯迅も、かつてここで勉学したということも重なって、仙台は親近感の感じられる街となりました。
(ラジオ・パーソナリティー)
はく・せつばい 中国・吉林省出身。上海・復旦大学卒業後、1993年、来日。商社勤務を経て、ラジオ・パーソナリティーに。現在、大阪・FMCO・CO・LOの漢詩教養番組「詩境遊人」を担当。また、カルチャーサロンの講師や、新聞・雑誌コラムの執筆、講演、テレビ出演など、多彩な分野で活躍中。