Current Directory is http://www.seikyo.org/【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2005 by The Seikyo Shimbun.



メディアのページ

アメリカ中西部から見るメディア社会

大庭絵里

(2005年4月12日付)


最高裁、18歳未満少年への死刑に違憲判断

人権レベル向上に果たす報道の役割


 さる3月1日、アメリカ合衆国最高裁判所は、18歳未満の少年に死刑を科すことは、残酷かつ異常な刑罰の禁止に関する修正条項第8条に抵触するという判断を示した。ニューヨーク・タイムズ紙とミズーリの地元紙を比較して、どのように報道されたのか比べつつ、米国における死刑の議論について考えてみたい。

 今回の判決は、ミズーリで起きた少年による殺人事件に対するミズーリ州最高裁が下した判決(主犯少年は仮釈放なしの終身刑)を支持し、さらに18歳未満の少年への死刑に関する憲法判断を示したものである。

 1993年、当時17歳の少年と15歳の少年が、ミズーリ州セントルイス南部の町で、ある女性宅に押し入り、女性をしばって、橋から川に投げ捨てた。これについて、下級審では17歳の少年に死刑、15歳少年には終身刑という判決が下されたのだが、2003年、州最高裁は、18歳未満の少年への死刑が残酷な刑を禁止する第8修正条項に違反するという理由で、17歳少年も終身刑(仮釈放なし)にしたのであった。州検事局はこの判決を撤回するように全米の最高裁に申し立てていた。

 すでに最高裁では、1988年に15歳少年への死刑が、2002年には知的障害者への死刑が憲法第8修正条項違反と決定されていた。

 どの新聞も、最高裁における裁判官の判断は5対4と意見が対立していたことや、裁判官全員の氏名と見解を明示して紹介していた。ニューヨーク・タイムズ紙は、この争点について特に詳細な報道をしている。それによれば、18歳未満の少年への死刑を禁止する理由として、(1)すでに12州で死刑は廃止され、存置する州においても大半は少年に対する死刑を科しておらず、「品位は進化しつつある」(2)少年は未成熟で成長の途上にあり、「平均的犯罪者よりも有責性は低い」(3)少年を処刑しないという判断は国際世論にもかなう――という3点が挙げられている。

 これに対し、少年に死刑を求める側は、(1)全米レベルでは18歳未満を処刑しないという合意は形成されていない(2)18歳という年齢で一律に線を引くことは不可能(3)国際世論によってアメリカ市民独自の見解がないがしろにされてはならない――と反論している。また、ミズーリ州最高裁の判決のほうが、むしろ違憲なのであるという。

 ニューヨーク・タイムズ紙がこのような法的論争を中心としているのに比べ、地元紙は、事件内容や裁判過程、被害者の遺族や裁判関係者、被告本人へのインタビューなど、「地元ならでは」の記事が掲載されている。

 ミズーリ州を代表するセントルイス・ポスト・ディスパッチは独自取材の記事であり、コロンビア市の地元紙はAPからの配信記事であるが、いずれも地元紙独自の主張を反映したものと認識してよいであろう。

 どちらの地元紙も、被害者の遺族、当時の検察当局の見解として、少年だからといって特別扱いされるべきではなく、少年であっても残忍な殺人を犯した犯人は死刑にされるべきだ、という主張を掲載している。年齢という線引きには意味がないのであり、事件の性格を個別に判断すべきであるという。

 さらに、コロンビア市の地元紙の記事では、現在28歳で、事件当時17歳の少年は、今回の判決を喜び、いまでは刑務所の中で積極的なキリスト教徒となり、刑務所内のエイズ患者の世話などをしていると弁護士が伝えている。セントルイス・ポスト・ディスパッチは、ミズーリ州最高裁の判断が正しかったことを認められ、喜ぶ当時の最高裁判事の談話など、今回の判断を歓迎する声と、当惑する検察当局の声とを並行して記述している。

 こうした“バランス”をはかっているものの、これら地元紙は、特にミズーリ州最高裁の判断が正しかったことを誇り、今回の最高裁判決を高く評価している。ニューヨーク・タイムズ紙も同様である。

 ミズーリ州には18歳未満の死刑囚はいなくなった。全米では、現在72人の少年死刑囚がいるが、刑の見直しが行われることになる。今回の判決とそれに関する報道は、アメリカ社会の中で死刑をめぐる対立が根深いことを示している。18歳未満への死刑がない日本では、この判決をめぐる対立に無関心かもしれないが、はたして「他人事」といえるだろうか。アメリカは少しずつ、死刑の対象を狭めてきている。メディアも死刑に対して堂々と批判する。こうした努力が、いずれは国際的に高い人権のレベルへと国家を導くのかもしれない。(神奈川大学助教授、ミズーリ大学コロンビア校客員研究員)