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(2005年1月11日付)
好奇心と憎悪にまみれた犯罪報道 |
昨年11月12日、2年間にわたり全米のメディアが注目してきた殺人事件(スコット・ピーターソン事件)の陪審が最終段階をむかえ、被告人には死刑が相当であるとする判断が下された。
2002年12月、カリフォルニア州で妊娠8カ月の女性が突然、行方不明となった。彼女の両親も夫も涙ながらにテレビで捜索への協力を訴えた。メディア側もこの事件に大きな関心を示した。ところが彼には、妻が行方不明になる前から交際していた女性がいた。彼が独身男性であると信じていたその交際相手は、警察に捜査協力を申し出て、2003年1月に記者会見し、彼を嘘つきであると非難した。
4月には頭部と四肢のない妻のからだと体外に出た子どもの遺体が別々にサンフランシスコ湾岸で発見された。夫は逮捕されたが、無罪を主張した。陪審は2004年6月から開始された。
カリフォルニア州法では胎児も殺人事件の対象者となることから、この事件はダブル殺人事件として扱われた。被告人が有罪とされれば、死刑もしくは終身刑となる。
美女美男の夫婦という評判に加え、夫には婚外に交際相手がいたという事実、その女性が捜査への協力として彼からの電話を録音したものが、裁判では証拠として採用され、その内容も報道されたことなど、テレビやゴシップ雑誌で大きな話題となる要素はたくさんあった。
被害者、被告人双方の関係者がテレビに登場しては、自分たちの情緒を語り、犯罪に関する専門家やコメンテーターは持論を展開した。状況証拠ばかりなのだが、陪審の過程が詳細に報道され、話題が話題を呼ぶ形でこの事件の報道は過熱していった。
CNNなどのケーブル番組は、刑罰の判断が下される2時間前から特別番組を設け、開廷直後から音声のみではあるが、法廷を生中継した。裁判所の外で放送を聴いていた野次馬の何人かが「死刑」という陪審員の声が聞こえるやいなや、拍手し、歓声をあげた。このシーンは、メジャーなTV局でも報道された。
さらに、閉廷後、陪審員を代表して3人が記者会見に応じた。陪審員にとっては難しい事件ではあったが、それでも計画的犯行であり、犯行の残忍さから死刑が相当であると考えたという。裁判所の外では、被害者、被告人双方の両親が、涙ながらにそれぞれの気持ちを語っていた。被告人と交際していた女性は、最近、手記を出版した。
裁判官からの正式な判決が下されるのは2月である。裁判官は、死刑から終身刑に減じて判決を下すことも可能であるというが、どうなるかはわからない。それにしても、多くの人々が多くのことを発言しすぎ、また注目されすぎた。
遺族の悲しみを飛び越えて、人々の好奇心と被告人への憎悪がテレビ報道の中心だったといえる。一般の人々にとっては既に娯楽の対象となった観のある事件であったが、証拠採用や死刑に関する議論こそが本来展開されるべきではなかったのだろうか。
この陪審の数日後、ミズーリでは、ある妊婦が殺され、体内から子どもが取り出され誘拐されたという事件が起きた。被疑者の女性はすぐに逮捕され、子どもは無事であった。裁判までにはまだ時間がかかりそうだ。報道が加熱しないことを祈るばかりである。
(神奈川大学助教授、ミズーリ大学コロンビア校客員研究員)