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(2004年11月9日付)
“倫理的に良くない”と読者は認識 |
ミズーリ州コロンビア市(人口約9万人弱)を代表する地元紙は、「コロンビア・デイリー・トリビューン」(発行部数約2万部の夕刊紙)である。国際問題や全米的問題についてはAPによる配信や東海岸の高級紙からの転載に依存するが、もっぱら地元の政治経済、生活、出来事などが中心的な新聞である。地域密着型の地元紙であるだけに、犯罪報道には問題がついてまわる。小さな町の犯罪報道を考えてみたい。
「コロンビア・デイリー・トリビューン」では、殺人や暴力的な犯罪事件などは、1面で大きく扱われる。さらに、逮捕者のリストを載せるコーナーがある。最終面は訃報、交通情報、記事の訂正などの「記録」というタイトルのページなのだが、前日に逮捕された者のリストが毎日、そのページに掲載される。およそ20人前後の逮捕者の氏名、年齢、住所、逮捕容疑、保釈金が市内の警察署ごとにまとめられている。
逮捕容疑は、裁判所に出頭しなかった罪、警察官への詐欺、免許停止中の運転、飲酒運転、大麻(マリファナ)所持・使用、子どもを危険にさらした罪、対物損害、暴行など多様である。すべての逮捕者のリストかどうかは未確認だが、それほど大きな事件ではない。罪の重さによって保釈金の金額も異なる。そうした逮捕容疑の内容と保釈金について知るのは興味深いのであるが、問題は氏名と住所の公表である。
通常の犯罪報道でも実名、住所などは書かれるのだが、こうした「逮捕者リスト」を実名でリストにすることに読者は何も思わないのだろうか。何人かの知人にこの問いを向けたが、「小さな田舎町だから仕方ない」「決して良いことではないが、ゴシップの種にすぎず、誰も読まないだろう」という反応がほとんどであった。
ミズーリ大学社会学科の3年生が履修する「社会学理論」という授業で、この話題を取り上げてもらった。リストされた人に対して地域の人々はどういう態度をもつのか、という私の問いに対しては、「知人の間では話題になるだろう」「誰も気にしない」など意見はわかれた。
名前を記載する必要はないし、人権侵害だ、という学生がいる一方、自分の知り合いがリストにあるかどうか興味があるし、友人が載っていたら仲間で大きな話題になっておもしろいと答える学生も多くいた。この記事が「見せしめ」と同じ効果をもっているという認識では一致した。ほとんどの学生はこのような記事に重要性はないし、自分は読まないと答えた。
もっとも、発行部数も多く、ミズーリ州を代表するような大きな地元紙では、このような記事はない。アメリカ中西部のこの田舎町では、逮捕者リストの掲載は慣習となってしまっているが、だからといって、それが決して倫理的に良いことではないと読者には認識されている。こうした報道が「事実」の「客観的報道」として当然である、と誤解してまねしようとする者が日本にいるとしたら、大きな間違いである。
(神奈川大学助教授、ミズーリ大学コロンビア校客員研究員)
略歴おおば・えり 静岡県生まれ。上智大学外国語学部卒業、同大学大学院文学研究科社会学専攻、博士課程満期退学。専門は逸脱・社会問題論、犯罪社会学。共同執筆として、矢島正見他『よくわかる犯罪社会学入門』(学陽書房、近刊)。