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(2004年10月19日付)
ネガティブ・キャンペーンの凄まじさ 州知事、連邦議会選挙も絡み過熱 |
私は8月から米国ミズーリ州コロンビア市に滞在している。ミズーリ州は、地図上では米国の中心に広がる平原地帯のやや東に位置し、「中西部」とよばれる地域にある。ニューヨークやサンフランシスコといった両海岸の大都市とは全く異なり、ここは世界一の農業国としての米国の側面を実感させると同時に、工場労働者を多く抱えており、概して保守的、共和党支持者の多い地域である。その中西部の小さな町から、大統領選挙のありさまについて報告する。
米国大統領選挙がデッド・ヒートを繰り広げ、その中で様々なキャンペーンが行われていることは、日本にもかなり伝わっていることだろう。特にテレビでの、いわゆる「ネガティブ・キャンペーン」として知られるCMは、双方ともに相手への攻撃がすさまじい。
私が見たブッシュ氏側のCMでは、ケリー氏が何度も増税に賛成してきたこと、テロ対策としての情報収集能力を高めると主張しながら、それに関する委員会に欠席ばかりしていたことなどを具体的な数字を示して批判し、人格をも否定するような内容であった。
民主党はそもそもテレビCMに共和党ほどには資金を投入していない。さらにケリー氏自身によるCMは、資金不足から州を選んでオンエアする作戦に切り替え、ミズーリ州では7月から彼自身によるCMはオンエアされていない。ミズーリ州の経済都市、セントルイスは第2回の大統領候補者テレビ討論会が行われた場所であるのに、である。
もっとも、ケリー氏自身ではなく、その支持団体がブッシュ氏を批判するCMはこの町でも流れていた。ブッシュ氏側のCMに比べれば、目立たない量ではあったが、ブッシュ政権下において、雇用状況が悪化していることをささやかに無声で訴える内容であった。
一般市民にとって、CMが候補者自身によるものか、支持者団体によるものかは、それほど大きな意味をもたない。実際、支持者団体による広報活動であるというテロップはほとんど見えないくらいに小さい。支持者団体によるCMは選挙資金規正法による規制をまぬがれるためのもの、ともいわれている。プライム・タイムという時間帯に、うんざりするほど、たて続けに流れてくる選挙活動のCMは、一般市民に対してどのような影響があるのだろうか。
ミズーリ大学社会学科の教職員は共和党に批判的である。彼らは、口をそろえて、こうしたブッシュ氏の連続的なCMはきわめて影響力があり、これによってブッシュに投票する人は増えるのではないか、との懸念を表明する。彼・彼女らは、民主党がこれまで相手を攻撃するキャンペーンをしてこなかったことを誇りにしている。共和党がいかに資金をCMに投入しているかを批判し、民主党側がある程度のブッシュ批判CMを流すこともやむを得ないと結論づけた。
9月半ばからは、ミズーリ大学を中心として発展してきたコロンビア市では、大統領選挙CMは消えて、州知事と合衆国上院議員の座をめぐる選挙CMが頻繁に流れている。11月は大統領選挙のみならず、州知事、米国上院議員などの選挙が同時に行われる。
地元の地方選挙では、全米レベルの選挙と同様、共和党と民主党が対立する熾烈な闘いが展開されているのである。このCMもまた、すさまじい。それぞれの候補者(及び支持団体)が相手を攻撃し、批判をかわすといったCMが、番組の合間に続けて何度も放映される。
この選挙関連の報道に接していると、米国社会におけるメディアと民主制について様々に考えさせられる。とりわけ、表現の自由の長所を実感させたのは、相手候補を罵倒するCMを許す米国市民の許容性ではなく、大統領候補者のテレビ討論を「ものまね」によって笑わせる深夜のコメディー番組の存在であった。
NBCの土曜深夜には、政治的話題を取り入れた「お笑い」番組がある。第1回大統領候補者によるテレビ討論後の番組では、イラク戦争について、単に「アメリカを守るため」とおどおどしながら主張するブッシュ役と、スマートさをみせつけながら、立場を変遷させるケリー役を演じる二人のコメディアンによるパフォーマンスが実に愉快であった。
このように権力を笑い飛ばす「お笑い」は日本ではあまり見られない。しかし、ウチワ話にあけくれる(あるいは権力者に遠慮して何もしない)日本の「お笑い」よりも、大統領選挙という「厳粛」な政治的出来事もコメディーに変えて笑うという一般市民の感覚があふれる番組のほうが、はるかに健全なメディアのように私には思われる。
(神奈川大学助教授、ミズーリ大学コロンビア校客員研究員)
略歴おおば・えり 静岡県生まれ。上智大学外国語学部卒業、同大学大学院文学研究科社会学専攻、博士課程満期退学。専門は逸脱・社会問題論、犯罪社会学。共同執筆として、矢島正見他『よくわかる犯罪社会学入門』(学陽書房、近刊)。