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メディア月評

連載コラム
「メディア月評」
創価大学教授・森 幸雄

【8】


メディア買収の問題点

ニッポン放送VSライブドア騒動

(2005年2月22日付)

 今いちばんの話題は、ニッポン放送株の買い取りであろう。インターネット関連会社のライブドア社の堀江貴文氏が8日、東京証券取引所の時間外取引でニッポン放送株の35%を取得したと発表した、との報道が発端であった。

 堀江氏はプロ野球への、いわゆる新規参入で話題になった人物である。堀江氏は球団のオーナーにはなれなかったが、一躍、時の人となり、フジテレビの番組のレギュラー出演者にもなっていた。

 その話題の人物がラジオ局の筆頭株主となり、完全な支配が可能になる50%以上の株式を確保しようとしている。ニッポン放送はフジテレビや産経新聞などいくつもの会社の大株主である。ニッポン放送を支配下に置くことで、フジサンケイグループという巨大なメディア・グループに影響力を持つことができる。

 民放も株式会社であるから、企業の合併と買収(M&A)の対象となるのは当然のことといえよう。しかしながら、今回の出来事には違和感をおぼえる。

 戦後の日本社会では、民放とNHKという財政基盤を異にする2つのシステムが並立し競争することで、放送というメディアが発展してきた。これはひとつの公共空間といえる。その公共空間においては私たち視聴者も重要な構成要素となっている。

 なかでもテレビは家庭で同時に視覚と聴覚の両方でひとつの世界を疑似体験し、その体験を共有できるという夢を実現した宝箱といえよう。

 メディアの買収は企業の問題ではなく、私たちの社会の公共空間の問題でもあるのに、堀江氏の主張にはその部分が希薄なように思われる。

 電波は使用できる周波数が限られているので、政府の監理下にある。このため、放送局は政府や政党からの圧力をうけやすい。とりわけNHKは予算の承認が必要なために、政治家の動きを気にする傾向が強いといわれる。

 先月から続いているNHKと朝日新聞との対立は、ラグビー中継にまで飛び火し、泥沼化している。これは本来、NHKと朝日新聞との関係の問題ではなく、NHKが放送内容を与党議員に事前に説明していた慣習、つまり放送と政治権力との関係の問題であった。

 民放は広告収入を財源とするため、NHKに比べて政治家や権力に対しては厳しい番組を作ることができる。実際に、政府や政治家からクレームがつくほど厳しい番組がいくつも存在した。

 また、広告主である企業や視聴者の関心の変化をとらえ、民放が新しいタイプの番組を提供して、放送に広がりを持たせたことは評価されてもいい。

 このように二つの異なる放送局のシステムが並立することで、放送は多様な番組を提供している。放送の多様性は多くの視聴者を引きつけてきたし、逆に多様な意見や主張を発信する道具ともなりうるのである。

 プロ野球の危機を救わんとしたヒーローとして堀江氏は多くの人の支持を得た。しかし今、その堀江氏は私たちからテレビという大切な宝箱を奪おうとしているのではないか、という不安感は消えない。(創価大学教授)