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ロンドンの街角から

連載コラム
「ロンドンの街角から」

【8】


ホロコーストを巡る裁判の結果

(2000年5月2日付)


 英国の歴史家、デビッド・アービング氏が、彼を「ナチスの残党」と呼ぶ米国の歴 史家、デボラ・リプシュタット氏を、名誉毀損で訴えた裁判のことは以前に紹介した が、先月十一日、英国高等法院で判決が言い渡され、前者の敗訴に終わった。

 ホロコーストに関して、アービング氏は、アウシュビッツのガス室の存在、ヒトラ ーの直接指揮、組織的な虐殺計画の存在を否定している。六百万人という犠牲者の数 も誤りで、生存者の証言も信じてはいけないと言う。

 これに対し、リプシュタット氏は著作の中で、アービング氏は歴史をゆがめる「最 も有名で危険なホロコースト否定者」と非難した。その本の内容によって名誉が著し く侵害されたとして、アービング氏は訴えていたのである。

 しかし、訴えは退けられ、逆に判決文の中で、彼は「イデオロギー上の理由から、 永続的かつ故意に、歴史的証拠をねじまげ、操作している」と指摘された。

 裁判とともに、歴史とは何か、そして歴史家の役割とは何か、という古典的なテー マが浮かび上がった。歴史に厳密な客観性はなく、常に歴史家の何らかの主観が混じ っているとすれば、彼の見解もひとつの研究成果として認めるべきなのかどうか。

 彼と親しい歴史家が、ホロコーストの実態を徹底的に議論し真相をつかむために は、「アービングのような挑戦が必要だ」と書いている(『イブニング・スタンダー ド』紙)。

 彼自身も、「言論の自由」を守るために戦っていると言う。しかし、何でも許され ていいということはあるまい。「すべては研究の『精神』にかかっている」(『タイ ムズ』紙)ことは明白である。(有田晴也・英国ウォーリック大学博士課程在籍)