![]()
【3】(2006年8月2日付)
50年代末から本格的に研究、実践 |
日本において協同学習が本格的に研究、実践されるようになったのは1950年代末からと考えられる。その研究には、広島大学の末吉悌次教授(故人)を中心とする教育社会学系の集団学習と、名古屋大学の塩田芳久教授(故人)に率いられた教育心理学系のバズ学習という二つの大きな流れがあった。
早くも1959年に末吉悌次編著で『集団学習の研究』が刊行され、62年には塩田芳久・阿部隆の編著で『バズ学習方式』が出版されている。60年代当時の出版物を今あらためて読むと、その実践水準は世界的であっただけに、もし、英語で実践の成果を世界に発信していたら、と思わずにはいられない。
『バズ学習方式』には『落伍者をつくらぬ教育』という副題がついていた。子どもたちは賢くなりたくて学校に通ってくる。にもかかわらず、いつの間にか授業に落ちこぼれ、学校生活から落伍していく子どもたちは少なくない。協同学習はその発展の当初から、学力の低い子どもたちの学びを高めることに大きな関心を払ってきた。
アメリカは訴訟の国である。その国で、教育効果の薄い教え方を採用し、結果として子どもたちの学力が低迷したならば、保護者は学校や教育委員会を相手に訴訟を起こすだろう。協同学習の研究者たちは、もし、伝統的な教師主導の授業をした結果として子どもが落ちこぼされたことが明らかになれば、学校側の敗訴は避けられないだろうと、半ば冗談に半ば真剣に語っている。
アメリカの学校教育は日本とはだいぶ様相が異なるので一概に比較できないが、協同学習を積極的に導入する理由が、州内統一学力試験対策である場合が多い。協同学習の導入によって、まず成績下位の子どもたちの底上げが進む。成績下位の子どもたちの学力の向上は、クラス全体の学習意欲の向上に繋がり、成績上位の子どもたちの学力も増進される。すでに何百という研究結果が、伝統的な教授法に比して協同学習の優位性を示しているアメリカでは、協同学習をまったく用いないで学校の授業改善を考えるのは難しい。
国際学力比較調査でトップに立つフィンランドの教育の鍵は、協同の重視である。同じく上位のシンガポールでも国を上げて協同学習の導入を進めている。カナダやオーストラリアなども協同学習に強い関心を示しているようだ。
一方、日本では協同ではなく、個別を重視した取り組みが続いている。個々の家庭がその経済力に応じて子どもを塾にやり、学校では放課後に開いてしまう学力差に応じた個別指導に追われる、そんな絵図が描ける地域も多いだろう。
この週末(8月5、6日)に、名古屋にある南山大学で日本協同教育学会の第3回大会が開かれる。大会では、日本の協同学習のオピニオンリーダーの一人、東京大学の佐藤学教授が基調講演する。
広島大学系の集団学習(現在は「全国個を生かし集団を育てる学習研究協議会」通称「個集研」として活動している)、名古屋大学系のバズ学習(現在は「全国協同学習研究会」通称「協同研」として活動している)、そのほか様々な経緯で協同学習を実践あるいは研究している人たちが、この大会に集まってくる。日本における協同学習の新しい時代が始まっている。
(創価大学教授)
せきた・かずひこ 1960年、東京都生まれ。創価大学文学部卒。ウィスコンシン大学大学院修士課程を経て、イリノイ大学大学院で博士号取得。現在、創価大学教育学部教授。同大学教育・学習活動支援センター副センター長。日本協同教育学会副会長。著書に『ソフト・パワー時代の学校教育』、訳書に『学生参加型の大学授業』など。