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(2000年12月12日付)
一九九○年、国連は「すべての移住労働者及びその家族構成員の権利保護に関する 条約」(以下、移住労働者権利条約)を採択した。この十二月十八日は、その十周年 である。国際的な移住現象が世界的規模に及ぶに伴い、移住労働者が被りがちな人権 侵害に着目し、その諸権利を国際的に保障するものだ。何より注目されるのは、「不 法」労働者やその家族も対象にしていることである。
十二年前、法務省入国管理局(入管)によって一方的に在留資格更新を拒否され単 純オーバー・ステイ(不法残留)にされたバングラデシュ人の配偶者は、退去強制 (強制送還)の瀬戸際までいった。これを回避するには、偶然知った出入国管理及び 難民認定法五十条の、法務大臣裁量による在留特別許可(在特)を得るしかないと思 われた。
入管職員から「前例がない」とさんざん圧力をかけられたが、図らずもパイオニア ケースを獲得。一連の経緯は、単行本『在留特別許可アジア系外国人とのオーバース テイ国際結婚』(明石書店)にまとめ、主要各紙などで報道されたこともあって、当 事者ほか市民団体や弁護士らに活用されて今日に至っている。
実は、「在特」獲得までの十八カ月間に私を傷つけたのは、入管にも増して、それ に同調する周囲の日本人だった。対して、欧米のみならずアジアやアフリカ出身の友 人たちは「日本政府のやり方が理解できない」と首をかしげた。自国にいるにもかか わらず、気が遠くなるような孤立感を覚えていた私を励ましてくれたのは、「在特」 獲得から一年後に採択された移住労働者権利条約だったのである。
二十一世紀はITとBT(バイオテクノロジー)の世紀といわれる。夏の沖縄サミ ット、米国とならぶITスーパー・パワーのインドへの首相訪問あたりから、猫も杓 子(しゃくし)もITの大合唱だ。
「二十一世紀日本の構想懇談会」による移民政策への転換や英語第二公用語化論で 始まった今年は、「IT戦略会議」による「IT基本戦略」(以下、戦略)と「IT 基本法」成立で終わろうとしている。後者の二つについて、主要各紙では、やはり日 経の報道量が多めだが(十一月二十七日夕刊、十一月三十日朝刊など)、発表ものの 域は出ていない。
私が非常に気になるのは戦略がいう「三万人の優秀な外国人IT技術者の確保」で ある。ここに具体的に想定されているのはまずインドだろう。来年二月にはヴァジペ イ(バジパイ)インド首相が来日予定で、必ず会談に上るはずだ。
国際競争力のあるインド人技術者の争奪戦は、短期にとってもこの十年余り、欧米 間で熾烈(しれつ)に繰り広げられてきた。例外的に査証発給枠も広げるほどだ。さ らにいえばこの競争はすでに、インド周辺諸国、すなわちバングラデシュ・パキスタ ン・スリランカにも若干(じゃっかん)飛び火している。いずれも国際競争力のある 人材を抱えている。だが、インドのITパワーすらやっと最近気づき始めた日本のメ ディアには意識の埒外(らちがい)だろう。
かつて、入管職員に口汚なく罵(ののし)られながら取り調べを受けた配偶者は現 在、東京都内にある欧州系多国籍企業の日本法人で働く。IT人材のなかでも日本に 絶対的に不足しているネットワーク・エンジニアである。
とかくGDP(国内総生産)の数字によって見下されたり、「不法」と蔑(さげ す)まれる第三世界出身の人々も、日本人と同じように基本的人権を享受すべき主体 である。それと同時にかれらと公私双方の付き合いをしてきて実感するのは、当たり 前のことだが、だれもが潜在的な可能性を秘めていることだ。いまの日本に最も欠け ているのは、こうした「認識のインフラストラクチャー(基盤)」である。
これなくして本来、移民であれ技術者であれ受け入れなどあってはならない。少な くとも政府は、移住労働者権利条約を一日も早く批准すべきである。
(ジャーナリスト)