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(2000年9月12日付)
政府の司法制度改革審議会(以下、審議会)が、十一月に中間報告を出す予定だ。 司法改革の大勢がここで決まるといわれるが、依然として報道は少ない。七月に法務 省・最高裁の膝元で行われた東京公聴会を報じたのも、日経や東京も含めた主要六紙 のうち朝日だけだった(七月二十五日)。
審議会が掲げる論点のひとつに「司法の国際化への対応」があるが、いわば付け足 し扱いである。市民のための司法改革を大前提に「司法の国際化」をいうなら、真っ 先に検討すべきは司法通訳の抜本的改革だ。
朝日新聞は、審議会が公的被疑者弁護制度導入で基本的に一致したことを受け、そ の背景を三回連続で取り上げた(八月二日から四日)。一九八○年代に相次いだ再審 無罪の反省から、被疑者が弁護人の援助なしに受ける取り調べが誤判の原因のひとつ だとして、大分県弁護士会から全国の弁護士会に広がったのが当番弁護士制度であ る。それが公的被疑者弁護制度の呼び水になったと書く。
ただし、日本語を解さない外国人の被疑者、ひいては被告人に対する適正手続の保 障からすれば、それだけでは足りない。弁護人以上に重要な役割を担うのは通訳人 だ。いざというとき通訳人が必要な人口はすでに九十万人に上る。その現実を見据え れば、公的被疑者弁護制度と不可分に「公的司法通訳制度」が必要なのは自明であ る。
司法通訳は、警察通訳・検察通訳・弁護通訳・法廷通訳に分けられる。人材プール として、警察通訳は警察庁が都道府県単位で置く通訳センター、検察庁は首都圏を中 心に全国をカバーする名簿、法廷通訳は最高裁が用意する名簿がある。
法廷通訳についていえば、現在、四十二言語・二千七百三人が登録されている。日 本語を解さない被告人の四割に通訳がつかず、公判成立自体に疑義を抱かざるを得な かった一昔前に比べれば、向上したかのように見える。
だが、自らも法廷通訳人を務め、九二年に「日本司法通訳人協会」(兵庫県西宮 市)を設立した長尾ひろみ聖和大学助教授は「完全な通訳人はせいぜい全体の二割」 と言う。そのうえ、警察通訳の主力が警官だったり、捜査通訳と法廷通訳を同一人が 兼ねるなど、およそ公正さを保てるとは思えないケースも少なくない。これらの問題 は、市民や弁護士からたびたび指摘されてきた。
記憶に新しい例では、九八年に高松高裁で結審した道後事件がある。性産業で働か されていたタイ人女性が、同国人の元締め女性を殺害した罪に問われた。一審の日本 人通訳人はタイ語の日常会話すらできず、法医学鑑定人も呼んだ二審のタイ人通訳人 は日本語能力が不十分だった。にもかかわらず裁判所は、殺意がなかったという被告 人の主張を退け懲役八年の実刑判決を言い渡した(確定)。
この経緯は、一審からつぶさに追った市民による『通訳の必要はありません』(深 見史著、創風社出版)に詳しい。問題の根源は、採用時に能力試験がなく、養成・研 修制度は貧弱で実務査定も全くないことだ。各紙ともこの十年、程度の差はあれ取り 上げてきたはずだが、その問題意識がなぜ、正面から司法改革が論じられるこの時期 に反映されないのか。
日本が七九年に批准した国連・国際人権B規約(市民的及び政治的権利に関する国 際規約)一四条は、公正な裁判を受ける権利を定める。被疑事実やそれに対する刑罰 と理由を、理解できる言語で速やかかつ詳細に告げられる権利や、無料で公判通訳を 受ける権利は、最低限、保障されるべきだとする。
欧米諸国も、適正手続の保障に欠かせない制度としてそれぞれに整えてきた。「そ れでもなお日本では、よほどひどい事件がないかぎりメディアは報じない」と嘆く長 尾助教授は、さしあたって、法廷通訳の公的制度化を求める活動に力を入れている。 (ジャーナリスト)