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(2000年7月11日付)
六月中旬の南北首脳会談で生まれた劇的な和解ムードが、いまや二十一世紀初頭に かけてのアジア太平洋地域におけるアメリカの前方展開戦略のあり方に深刻な影を投 げ始めた。
キッカケは、さきの平壌会談で二人のキム最高指導者が、自主的な平和統一を目指 す南北共同宣言を発表し、その後もこの合意を確認、強化するような措置を次々とと っていることによる。
韓国の金大中大統領は会談後、「朝鮮半島に完全な平和体制ができるときまではい うまでもないが、統一後も東北アジアの勢力均衡のためには在韓米軍の駐留継続が必 要である」と強調している。
この言葉にウソはないにしても、“自主的統一”の表現の背後には、南北朝鮮の平 和再統一が外部勢力からの一切の干渉なしに進められる、との固い民族的意思が見え 隠れしており、三万七千人を数える現在の在韓米軍の存在意義が早晩問題になるのは 避けられない、との見方が強い。
その場合、朝鮮半島南部(現在の韓国)にだけ存在する一部の米軍基地の削減に始 まり、駐留米軍の全面撤退要求に発展する可能性さえも否定できない。
在韓米軍に変化があれば、その移動先に重大な関心が集まるだろう。現在、日本に 四万七千ないし八千人、その他あわせて十万人規模の米軍をあと十年、できることな ら二十年はアジア太平洋地域に駐留させ、地域の平和と安定を図るというアメリカの 基本戦略に影響が及ぶのは避けられない。かてて加えて、アジア安保のあり方をめぐ っては、在日米軍の構成を含めて現状維持を望むアメリカの与党・民主党と、機動力 を重視し海兵隊の削減に前向きな共和党の路線の対立が際立っており、秋の大統領選 挙戦の結果に新たな関心が集まることになった。
南北合意から一カ月を過ぎたが、最大の関心を持つアメリカの対応はすべて軍事面 に集中する。六月二十三日にはオルブライト米国務長官が訪韓し、金大統領とヒザ詰 めの談判をして、在韓米軍の撤退はもとより縮小をも議論するのは時期尚早だと繰り 返し念を押した。クリントン大統領も六月二十五日の朝鮮戦争発生五十周年の演説 で、「朝鮮半島はまだ緊張状態にある」と指摘して、在韓米軍維持の重要性を訴え た。金大統領はこうしたアメリカ政府の懸念は百も承知で、南北会談では金総書記に 在韓米軍の必要性を明言、金総書記も理解を示した、と説明している。
折りも折り、韓国では最近、駐留米軍への不満がウズ巻いている。朝鮮戦争当時の 米軍による住民の大量虐殺、六〇年代の枯れ葉剤の撒布による環境被害、米兵による 韓国女性の殺害事件など、次々と韓国の民心を逆なでする事件が起き、民族主義感情 を高めていた矢先に今回の南北自主統一宣言が出たことで、水面下で在韓米軍の撤退 を期待するムードが一気に広がった。米政府が何より懸念するのはこうした民心の動 向である。
北朝鮮との和解ムードが、アメリカのアジア太平洋安保構想に衝撃を与えているも う一つの背景は、アジア最大の軍事的脅威として、これまでは“ならず者国家”北朝 鮮のカゲに隠れていた「中国」を、今後は前面に押し出す可能性があることだ。米国 防総省が最近策定した紀元二〇二〇年までの軍事ビジョンでは、名指しこそ避けてい るものの、今後は中国が軍事大国になるとして、同国への軍事的対抗策に最重点が置 かれている。
こうした観点からすると、朝鮮半島が平和的に統一された後も、東北アジアの勢力 均衡のため、朝鮮半島に米軍を駐留させるとの発言の意味が見えてくる。在日米軍に ついても、この計画ではあと二十年は駐留継続を必要とすることになる。
南北朝鮮の和解と統一の前途は平坦ではあるまい。その後には、さらに深刻な問題 が、アメリカだけでなく日本をも待ち受けている。(国際問題評論家)