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ミレニアムの海図

連載コラム
「ミレニアムの海図」−− 仲 晃(あきら)

【5】


朝鮮戦争50年の怨念に幕
南北の“自主統一”宣言に衝撃走る

(2000年6月20日付)


 戦後五十五年、二十一世紀入りをあと半年に控えた時点になって、朝鮮半島に決定 的な変化が起きるキザシが見えてきた。平和が突然“勃発(ぼっぱつ)”したのであ る。韓国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を代表する二人のキム最高責任者が、 南北分断後はじめての首脳会談を、全世界へのテレビ中継というガラス張りの舞台の 上で、考えられる限りのなごやかで真剣な雰囲気の中で繰り広げた。

 ▼ようやく訪れた“平壌の春”

 そればかりではない。両首脳が署名した「南北共同宣言」には、民族あげて半世紀 の悲願になっている「自主統一」の大目標が書き込まれた。今年の六月二十五日は、 分断民族が血で血を洗う凄惨(せいさん)な朝鮮戦争が火蓋(ひぶた)を切って五十 周年にあたるが、この悲劇の遺産に終止符を打つための勇気ある一歩が、いま世界の 祝福を受けてようやく踏み出された。あまりにも遅かった「平壌の春」だが、時計の 針は、もう逆戻りしないだろう。

 今度の南北和解が、スンナリと恒久的な朝鮮半島の平和構築につながると楽観する のは、もちろん気が早過ぎる。だが、今回の首脳会談による南北の“雪解け”が本物 である証拠として、悪夢のような半世紀前の朝鮮戦争の記憶を一日も早く消すための 努力が、南北双方で期せずして始まったのを見逃がすことはできない。韓国の金大中 大統領は十六日に閣議を招集し、「南北朝鮮が再び戦争を起こさないことが、これで 確実になった」と宣言した。

 これをうけて同日、趙成台国防相は、二十五日に予定されていた朝鮮戦争五十周年 記念事業について、「南北共同宣言の精神を尊重する」として、北朝鮮を刺激する恐 れのある恒例の軍事パレード、戦争シーンの再現などを中止ないし規模を大幅縮小す る意向を明らかにした。また、これまで軍事境界線で行われてきた北朝鮮を批判する 宣伝放送も全面的に中止されることになった。

 北朝鮮もこれにこたえ、金正日総書記が、軍事境界線での韓国非難や、各種の国営 メディアでの韓国批判を控えるよう、直接の指示を出した。この次の目標は、現在も “一時休戦”のままになっている朝鮮戦争を、本格的な平和条約によって永久に歴史 の中に送り込むことである。

 ▼日米韓のアジア戦略に激震か

 外交と安全保障を中心とした中長期的な観点から、今度の南北会談を眺めて最も関 心を引くのは、二人のキム指導者が、両極端の国家・政治体倒を代表しているにもか かわらず、民族の自主統一を今後の最重要課題にすえるのを約束したことである。

 分断された二つの朝鮮の中長期的目標として、「和解」「協力」などのスローガン と並べて「統一」をあげるのと、今回のように基本目標として「自主統一」を掲げる のとでは天と地ほどの違いがある。共同宣言はその第一項目で「南北は国の統一を自 主的に解決していく」と高らかにうたっている。

 これは南北朝鮮が今後、対立する政治・経済体制にもかかわらず、外部からの干渉 は同盟、友好諸国からのものであっても拒否し、民族だけの話し合いで統一を達成す る、と世界に宣言したものだからである。

 共同宣言を読んだアメリカのクリントン政権が示した激しい失望感が、朝鮮半島の 新事態を何よりも雄弁に物語る。金大統領が首脳会談で、統一への展望とからめて、 在韓米軍の将来の展望(撤退)に触れたのは確実と見ているからだ。

 このため米政府は、公式には首脳会談の成功を祝福しながら、今後の軍事、経済的 な波及効果に神経をとがらせる。そして、韓国政府の説明には満足せず、早速オルブ ライト国務長官が訪韓して、金大統領にヒザ詰めで真意を聞くことにした。

 問題は在韓米軍にはとどまらない。アジア太平洋地域には、韓国三万七千人、日本 四万七千人を含め、約十万人の米軍による「前方展開戦略」が維持されているが、そ の主目標の一つである北朝鮮の軍事的脅威が薄れたり、南北朝鮮の統一が実現したり すると、米戦略が空洞化する。そこまでいかなくも、韓国が今後統一をにらんで自主 外交を進めるようになれば、北朝鮮封じ込めをねらう日、米、韓の連携も足もとが危 うくなるだろう。

 在日米軍の構成や使命にも影響がじわじわと出てくる可能性もある。アメリカの立 場から見ると、そのアジア太平洋戦略は、軍事面ばかりか、米国の経済、貿易、金融 面での活動の見えざる基盤になっており、安保路線の変更はアメリカのアジア外交ま でも激しくゆさぶることになる。

 二人のキムが、二十一世紀の入り口を前に渾身(こんしん)の力をこめて描いて見 せた朝鮮統一へのシナリオが、これからどんな波紋を広げていくのか、ドラマの見所 はこれからである。(国際問題評論家)