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(2000年5月16日付)
停滞していた世界の核軍縮が、ロシアでの政権交代を機会に再び軌道に乗りそうな 情勢である。
大国主義をむき出しにして、ロシアでの民主主義と市場経済への移行にブレーキに なっていた「エリツィン時代」が正式に幕を閉じ、エリツィン前大統領よりも二十一 歳も若く、精力的で実行力に富むプーチン氏(47)が七日、ロシア第二代大統領に 就任した。
プーチン氏は、三月の大統領選で圧勝した上、国内総生産(GDP)の急成長な ど、国内経済の好調さもあって、政権基盤を一気に固めた。余勢を駆って、大統領正 式就任を前に、米ロ第二次戦略兵器削減条約(START II)と、包括的核実験禁 止条約(CTBT)を次々と議会に批准させており、六月の米ロ首脳会談、七月の沖 縄サミットなど、相次いで行われるクリントン米大統領との首脳会談で、エリツィン 時代には凍結状態になっていた「ビッグ2」の核軍縮交渉に、ようやく突破口が開か れる見通しとなってきた。
ニューヨークでは現在、核不拡散条約(NPT)の第六回再検討会議が行われて、 核廃絶に対する世界の期待を盛り上げているが、これまで核軍縮にともすれば後ろ向 きの感があったロシアの路線転換で、トンネルの向こうの明かりがうっすらと見えて きた。
米ロ双方、START IIの批准を終えたことで、今後の焦点は第三次戦略兵器削 減条約(START III)の交渉、さらにはその後の展望に移ることになる。米案 によるとSTART IIIでは、手堅く双方二千ないし二千五百個の保有を上限とし ているが、プーチン大統領は四月に、これを一気に千五百個まで引き下げるよう、正 式に提唱した。
それどころか、ジュネーブで進められている両国の予備折衝で、ロシア側はさらに これを双方千個まで大幅削減する案を提示し、アメリカを驚かせている。つい最近ま で米ロはSTART Iの状態、つまり両国とも六千個の戦略核を保有してにらみあっ ていたことから見ると、夢のような話である。だが、これが直ちに実現するかとなる と、米ロともに複雑な外交、軍事、さらには経済的な事情を抱えている。
ロシアでは、従来保有してきた膨大な核兵器が、急速に老朽化(劣化)してきてお り、これまでの苦しい経済状態では、更新どころか維持もできない状態が続いてき た。START IIIによる核軍縮をしてもしなくても、十数年後にロシアの使用可 能な保有核弾頭は千個前後に縮小する、と専門家は見ている。それなら米ロの合意に よる核削減を実施し、アメリカの核も同時に縮小した方が安全保障上でも賢明、とい うのがプーチン政権の計算である。
これを受けて核軍縮の進捗をはかりたいクリントン政権だが、こちらもあまり公然 とは口に出せないジレンマに直面している。
第一は、ロシアが共産主義の旗を下ろしたものの、米国への強烈な対抗意識を捨て ておらず、軍事的にはいぜん米国への最大の脅威であることだ。米国防総省はいまで も、ロシア国内に約二千個所の核攻撃目標のリストを極秘で持っているといわれ、START III の削減目標を二千個以下に切り下げるのは、米国の安全を脅かすとし て消極的といわれている。
かりに千個まで削減すると、ロシアだけでなく、軍事費を大幅に増大して、核ミサ イルの長距離化(目標は米国)をめざして懸命な中国の核戦力(だいぶ前に四百三十 個の保有が確認されている)を圧倒することは不可能になる。
もうひとつの難問は、中国、イラン、北朝鮮などからの米本土核攻撃を懸念する米 政府が、米本土ミサイル防衛(NMD)網の配備に本腰を入れ始めていることと関連 する。NMD配備には、米ロが以前結んだ弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の 修正を必要とするが、これにはロシアの核戦力を弱体化するとして、プーチン政権が 反対しており、米国が強行すればせっかくのSTART IIの発効がストップする。
米ロが核保有を千個にまで引き下げれば、中国やフランス(四百六十個)、英国 (二百八十個)の一層の核軍縮への追い風になる。強い国際世論が起きて、この流れ を一気に加速するのを期待したいものである。(国際問題評論家)