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ミレニアムの海図

連載コラム
「ミレニアムの海図」−− 仲 晃(あきら)

【3】


半世紀の対立に転機の予感
首脳外交に踏み切った南北朝鮮

(2000年4月18日付)


 新緑の季節を前にして、お隣の朝鮮半島で一陣のさわやかな風が吹き始めた。いま アジアで最も信望の厚い政治家である韓国の金大中大統領が、朝鮮民主主義人民共和 国(北朝鮮)の最高実力者、金正日国防委員長(朝鮮労働党総書記)の招きで平壌を 訪れ、歴史的な会談をする。

▼最後の“分断国家”解消への対話

 東西ドイツ、南北ベトナムがそれぞれ念願の統一を果たし、第二次世界大戦の「負 の遺産」と呼ばれた世界の分断国家は、いまでは朝鮮半島だけとなった。新しい千年 紀のスタートと時を同じくして、最後の分断国家同士の間に真剣な対話――その前方 には統一国家への期待もふくらむ――が始まろうとしている。

 とはいえ、現在の北朝鮮の外交、軍事、経済、社会情勢ほど、情報が少なく、的確 な分析が難しい国はあまりない。そのため、歴史的と形容される今回の南北首脳会談 についても、数々の不確定要素がある。

 金大統領の北朝鮮訪問ルートは、分断国家の悲劇を象徴する三十八度線(軍事境界 線の板門店)を越える形で行われるかどうか(そうでない場合は、ソウル―北京―平 壌という遠くて無意味な回り道になる)、今度の会談が順調に終わり、次の首脳会談 が日程にのぼってきた場合、金正日総書記がソウル訪問に踏み切るのかどうかなどが それである。

 南北首脳会談合意の土壌には、二年ほど前に就任した金大中大統領が打ち出した柔 軟な「太陽政策」がある。感情的でせっかちな南北統一論を退け、平和共存を当面の 目標にして、忍耐強く北朝鮮との関係改善を追求していくもので、「包容政策」とも 呼ばれている。

 北朝鮮は当初これに冷淡で、“敵は本能寺にあり”との方針から、韓国をバイパス して米国、さらには日本との直接対話を最優先させてきたが、最近は米朝交渉に行き 詰まり感が出ていた。日朝交渉でも、日本側は拉致疑惑や核ミサイルの抑制を前提に する姿勢を堅持しており、早急な進展は見込み薄である。

 そこで同国は局面打開をねらい、最近、国際舞台で思い切ったイメージ・チェンジ 作戦を展開し始めた。イタリアとの国交樹立、フランス、カナダ、フィリピンとの関 係改善がそれで、かつての盟友、中国との元首クラスの相互訪問、ロシアとの友好善 隣条約の調印も外交の幅を大きく広げた。

▼『太陽政策』、ようやく開花へ

 そんな矢先、金大統領が三月初めに訪問先のベルリンで提案した「太陽政策」の新 展開が北朝鮮指導部の目をとらえた。従来の民間企業による経済協力では不十分との 認識から、政府レベルでの大規模な経済支援プログラムを推進するというのである。 ジリ貧の食糧、エネルギー事情を改善するには、アメリカや日本との話し合いの妥結 まで待てない。ここはどうしても韓国の、それも政府による本格的なテコ入れが望ま しい。

 とはいえ、金正日政権が韓国の一方的支援に甘んずるわけがない。韓国はこのとこ ろ、北朝鮮から無視され続け、アメリカや日本が北朝鮮との対話を進めるのを見て焦 りの色を見せていた。そこで、北がいま南北首脳会談に応ずれば、政府間の経済支援 の獲得とともに、日本・アメリカ・韓国の三国連携プレーによる北朝鮮への共同戦線 にクサビを打ち込めるというしたたかな外交的計算もある。

 最近の北朝鮮の柔軟な外交路線のウラには、金正日政権がようやく国内で安定した 基盤を確立したことへの自信が見られる。数年前まで公然とささやかれていた北朝鮮 の内部崩壊説は、ほぼ姿を消した。国際社会も、こうした現実を十分に考慮に入れ て、北朝鮮への人道的支援はもとより、その政策の柔軟化にこたえる形で協力関係を 広げ、国際共同体へのソフト・ランディング(ゆるやかな着地)を実現する必要があ る。

 南北交渉がこのまま一直線に改善に向かうと期待するのは気が早過ぎるが、金大統 領の忍耐強い「太陽政策」で、北がヨロイの一枚を脱いだのだとしたら、トンネルの 先が少しずつ明るくなってくる希望が持てるだろう。(国際問題評論家)